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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.12.24
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​​古谷田奈月「神前酔狂宴」(河出書房新社)


 現在のこの国の「民法」は、国家元首が「神」だった時代の法律を、主権者が交代したにもかかわらずそのまま引き継いだものだという話を学生時代に聞いたことがあります。
 新コロちゃん騒ぎで、右往左往する権力者が下々の民草に「ほどこし」でもするかのような言動を繰り返す中で、出てきたのがマスクの配布でした。マスクを配布するという「コロナ対策」にも驚きましたが、配布に際して「世帯」という単位を思いついた「政治姿勢」にはもっと驚きました。イヤ、違和感を感じたというべきでしょうか?
 個人が口に着けるマスクを「世帯」という、人間の集合をあらわす単位に二枚配るという「非現実性」がなによりの驚きでしたが、SNS上では「サザエさん家」のマンガで笑われていることに笑ってしまいました。愚の骨頂というべき政策に対する中々な風刺でした。
 しかし、もう一つの疑問は「世帯」という単位の使用それ自体に対してでした。
「世帯」って何だ?というわけです。現状では人口統計上の概念のように扱われています、ぼくの頭に浮かんだのは「家」でした。世帯主という言葉が家父長制を想起させ、結果、単独の国家元首を暗示させるためのパフォーマンスではないのか。
 あるいは、コロナ感染という降って湧いた危機を、危機こそチャンスとばかりに、「赤子(セキシ)」という言葉を生み出した旧「民法」の「お国」思想をまき散らそうとしている演出に見えるというのがぼくの「うがち」でした。

 で、思い出したのがこの小説、​古谷田奈月「神前酔狂宴」(河出書房新社)​です。
 実に酔狂な題名がついていて「狂乱の結婚式」なんていうキャッチで、その上ご丁寧に「祝い袋」の装幀ですが、実はこの小説は、最近の小説のトレンドではないかという気がする、若い人たちの「お仕事場」小説です。芥川賞をかっさらって話題になった「コンビニ人間」とか、最近、若い作家が「お仕事場」で苦闘したり、活躍したりする姿を描くことが小説の「テーマ」として、案外流行っているのではないでしょうか。
 この小説では、若い「普通の人」達が繰り広げる「神前」の「酔狂な」「宴」が描かれていました。題名を見て、とりあえず「結婚式」というセレモニーを「酔狂宴」と言い切っているところが二重丸という印象で読み始めましたが、なかなかどうして、あなどれない作品でした。
 関西からほとんど出たことのない暮らしをしているぼくでも知っていることですが、東京の真ん中に、原宿というファッショナブルな街があります。
​​ この町は「国家神道」を象徴する、ある大きな神社の門前に開けたおもむきの町です。神社はもちろん「明治神宮」ですね。その神社の周辺には明治天皇が統帥する帝国陸軍と帝国海軍という組織において、それぞれに代表的な「軍神」を祭った二つの神社があります。「東郷神社」「乃木神社」です。​​
​​​​ さすがに、実名は使用されていませんが、作品は「東郷神社」と思しき「高堂神社」の結婚披露宴会場でアルバイトをする二人の男性浜野君​梶君​と神道系の大学を出て「乃木神社」と思しき「椚神社」で、正式に雇用された「社員」として働く女性​倉地さん​という「若者三人」の物語を描いています。
 こう書いてみると、神社が経営する結婚式場会社なわけですから、「巫女」ではなく「社員」と書くとピタリとはまるところに、少し笑えますが、彼女は、若いながらも、信仰的にも「社員」なわけで、男性二人と少し違うというのが小説の設定です。​​​​

​​​ 物語は「お金儲け」としての結婚式運営を「業務」として働く主人公浜野君に対して「信仰」に基づいた正しい結婚式を目指す女性社員倉地さん、その真ん中で、「愛」の言葉に酔うのと同じように「信仰」の言葉に魅入られてゆく梶君という三つ巴の様相を描いて行きます。
 まず面白いのは「結婚披露宴会場」の業務の様子の描写です。この辺りが「お仕事場」小説とぼくが呼ぶ所以ですが、乃木希典と東郷平八郎という軍人の、それぞれの人柄の影響なのかどうか、二つの神社の従業員のふるまいの違いについて描かれているあたりは、なかなか興味深いものがありますが、小説展開上の都合のための脚色という面もありますので、鵜吞みにはできません。
 描かれている人間関係は、なかなか錯綜していて、説明がつきませんが、ぼくなりに大雑把に図式化していえば、​​​この小説で、最も
​​​​面白いのは、主人公浜野君が「結婚式」という業務を、顧客の欲望の自由、個人の生き方の自由の表現形式としててってさせた結果、「同性婚」はもちろんのこと、「一人婚」という発想にまでたどり着くところなのですが、一方に「信仰」を実体化し、そこから波及してくる「正しさ」にからめとられてゆく倉地さん​梶君​を配置した結果、小説全体が、現在のこの国の様相を、不気味に描き出しているのではないかという所でした。
 当てずっぽうな読後感なのですが、ぼくにとっては結構リアルで、この小説を、かなり高く評価する理由です。​​​​

 最近、あちらこちらの神社で、何回手を拍つとか、どこで礼をするとか、どんな根拠があるのかよくわからないことが実体化され、もっともらしく宣伝されていますが、初詣も近づいていることですし、社前で自分が何をしているのか、立ち止まって考えるのも悪くないと思わせる作品でした。

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最終更新日  2020.12.24 00:30:43
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