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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.12.25
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​​​ 高山羽根子「首里の馬」(新潮社)​


 第163回芥川賞受賞作品です。作家の名前に聞覚えはありません、SF小説を書いている人のようですが、ぼくはSFは苦手です。
 書き出しのあたりはこんなふうで、好感を持ちました。
 この地域には、先祖代々、ずっと長いこと絶えることなく続いている家というものがない。英祖による王統で中心の都だったとされるこの地の歴史は、現在までとぎれとぎれに歯抜けになっている。かつて廃藩置県、つまり琉球処分で区画が引き直されて、その上太平洋戦争では日本軍が那覇・首里に沖縄戦の司令部を置き、その前哨地として、ひどい激戦が続いた。ここらあたりの建物はほぼ損壊、どころか跡形もなく消え去っている。もちろん建物だけではなかった。本土から沖縄を守るためとやってきた日本軍の兵士は、前もって聞かされていたよりずっと少人数で、しかもまともに最新の兵器が扱える能力を持った者などはほとんどいなかったという。結局主力となったのは、防衛相集と称してかき集められた、取り立てて特別な訓練を受けていなかった地元の民間人だった。沖縄のあらゆる場所は成年男子なしといわれるようになったうえ、あちこちで女子学徒隊も組織された。この戦いで彼らをはじめとした住民、地域の人間の死傷者数は「不明」。この正式な記録は現在まで変わることがない。
​ ​主人公は未名子さんという女性です。二十代から三十代のはじめの方で、未婚です。彼女には二つの仕事があります。​
​​​​​​​ 「沖縄及島嶼資料館」という「順」さん「より」と読みますが、たいへん高齢の女性民俗学者ですが、その順さんの資料館で、資料の整理のボランティアをしています。高齢の「順」さんを送り迎えしているのは娘の「途」さん「みち」とよみますが、市内で歯科医を開業しています。
 二人の名前も、まあ、考えてみれば、主人公の名前も意味ありげですね。どんな意味なのか分からなかったのですが。
 主人公の未名子さんが、この資料館の職員のように仕事をしているのは、子どもの頃に偶然立ち寄った場所がここだったからのようです。​​​​​​​

 彼女の本業はインターネット通信のオペレーターです。
​ ​遠くにいる知らない人たちに向けて、それぞれに一対一のクイズを出題する。仕事の正式な名称は「孤独な業務従事者への定期的な通信による精神的なケアと知性の共有」。通称は問読者(トイヨミモノ)、というらしい。依頼人は個人によるものではなく。多くの場合その所属する集団で、クイズの正解数や内容により、通信相手の精神や知性の安定を確認する目的でこのサービスを利用するのだという。​​
​ ​​カンベ主任というのが彼女の上司ですが東京(?)にいます。沖縄の事務所には未名子さん一人が勤務しています。通信の目的はクイズの出題と回答、そして、ちょっとした雑談ですが、小説中に顧客が数人登場しますが、なかなかユニークな人たちです。​​
 ついでですから、通信の「なぞなぞ」のやり取りの場面を一つ紹介します。
「問題」
と未名子はいい、そうしてから自分の画面、ヴァンダからは見ることのできない場所に表示されている文章を読み上げる。
「小さな男の子、太った男。そしてイワンは何に?」
読み終わったあとほとんど間を置かずに、遠い距離を隔てているにもかかわらず、未名子の耳にヴァンダの明瞭な声が響く。
「皇帝ツァーリ」
未名子は声を出さずに表情だけで笑って、
「正解」
というとキーボードを打ち、アカウントに一つ、この問題に正解したという情報を入力した。

 いかがでしょうか。なぜ「皇帝」が正解なのかお解りでしょうか。気になる方は本書をお読みになるしかありませんが、この作品には、こういう「小ネタ」的な面白さがちょこちょこと出てきます。
​ ただ、題目にもなっている首里の馬については、結局わからなかったのが、ぼくの本音です。​
​​ 「馬」は、紹介した未名子さんの自宅の庭にある日突然やってくるのです。
 ​​朝になるともう風はすっかりやみ、空気は透明でさらりとしていて、強い日が差していて、この調子ではきっともう、家の前のアスファルトも乾いている。雨や雲、すべての湿度を持ったものを強い風が吹き飛ばしてしまったあとの、典型的な台風一過、今日の場合は双子台風に挟まれた、さっぱりとした晴れ間だった。でも、どうせすぐにまた大雨になるのだからと未名子は空気の入れ替えのために一階の窓を開けようと手をかける。
 瞬間、小さな悲鳴を飲みこんだのは、カーテンを引き開けた目の前、未名子の家の小さな庭にいっぱいの、大きな一匹の生き物らしき毛の塊がうずくまっていたからだ。
​ ​これが「首里の馬」の登場のシーンです。​
​​ 琉球諸島には宮古馬という、今では天然記念物に指定されて保護されているらしい、小型の馬がいて、かつての琉球王朝時代、王様の公用馬として活躍していたらしいのですが、その宮古馬が突如登場した場面です。​​
 民家一軒分に積み上げられた沖縄の民俗資料。地球の果てで、一人ぼっちで生きているらしい相手に、笑いながら出題される「なぞなぞ」。嵐の翌朝に紛れ込んできた幻の宮古馬
​​​ キーワードは「情報」らしいのですが、そういうところが、いかにもSF小説の書き手の手管という感じですが、作家高山羽根子は誰に向かって何を書こうとしているのでしょうね。
 選考委員たちは、この小説のどこを評価したのでしょう。読み終わっても、実はよくわかりません。
 ただ、ここの所の芥川賞作家たちの作品とは、一味違う、社会や歴史に対する「意欲」を強く感じる作品であることは間違いないと思いました。
 なんだか、頼りない「案内」で申し訳ありませんね。お詫びというのもなんですが、ネット上にあった宮古馬の写真を貼っておきますね。小説の最後には、すっかり、未名子さんの愛馬になっていた馬です。​​             ​​宮古島キッズネット​​​​

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最終更新日  2020.12.25 00:50:31
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