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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
いとうせいこう「夢七日・夜と昼の国」(文藝春秋社)その1
マルチと称されているいとうせいこうの、かなり新しい作品集です。単行本の表題は「夢七日・夜を昼の国」で、中編の作品が二つ入っていますが、今回はとりあえず「夢七日」を案内します。 題が「夢なのか」というわけで、しょっぱなからやってくれますねという感じですが、漱石の「夢十夜」に対して、まあ、ちょっと照れてますという所なのでしょうか。 でも作品は読ませます。第一目がこんなふうに書きだされています。 2019年11月14日 木曜日 「夢」を見ている「君」がいて、この文章を記録している「私」がいる。「私」とは自分の夢の中で、「君」の姿を見つけて、それを書き記している人物であるらしい。そう考えると、この小説は記述されているという現実に対して、少なくとも二つ以上の「夢」の層が重ねられていて、読み進めて行けばわかることだが、「夢の中の夢」の構造はどんどん重ねることが可能で、「夢の中の夢」の記述にはこんなシーン記されていたりするのです。 十一月十四日 とまあ、こんな調子ですね。登場人物の夢の記述は、あくまでも小説創作上の架空の現実ですが、ここに記されている夢の「内容」の記述は、作品が商品として流通する社会、言い換えれば、作家と同じ世界に生きている読者が暮らしている社会で起こっている「事実」についての記述です。 現実社会のこういうとり込み方には、小説としてどんな意図があるのだろうというのが、この小説を読ませていく牽引力の一つでした。 「えっ?おもしろいけど、何がいいたいの?」 というわけですが、記述自体が、小説の構造とはかかわりなく面白いので、長々と引用しました。で、読者のぼくはここを読みながら、ふと、彼の「想像ラジオ」の方法を思い出したりしていました。あの作品では、架空のディスクジョッキーの受け取る「リクエスト電話」という設定でしたが、この作品では「夢」という設定です。 そんなことをつらつら考えながら読んでいると、驚くべきことに、翌日の「11月15日」の記述に「木村宙太」という聞き覚えのある名前が出てきたのです。 「木村宙太」って誰だったっけ? なんだか長くなりそうなので(その2)に続きます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.04.28 09:51:47
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