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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2021.01.30
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​​いとうせいこう「夢七日・夜と昼の国」(文藝春秋社)その1
​​​​ マルチと称されているいとうせいこうの、かなり新しい作品集です。単行本の表題は「夢七日・夜を昼の国」で、中編の作品が二つ入っていますが、今回はとりあえず「夢七日」を案内します。​​​​
​ 題が「夢なのか」というわけで、しょっぱなからやってくれますねという感じですが、漱石「夢十夜」に対して、まあ、ちょっと照れてますという所なのでしょうか。​
​ でも作品は読ませます。第一目がこんなふうに書きだされています。​
2019年11月14日 木曜日
君はこんな夢を見ている。
 柔らかいハンチングを頭にかぶって、よれよれの白い衣服をやせたその身に着け、独特の薄暗さの中をほかの集団と一緒に歩いているのだ。
             (中略)

 その世界の中で君の役割がなんであるかわからない。私のように日本の大学の非常勤講師をいくつもかけもちしながら主に日本文学史を教え、好きな古典芸能の劇評や関連図書の書評など書いて細々と暮らしているわけでもあるまい。そもそも異国だ。
​ ​​​​​​​「夢」を見ている「君」がいて、この文章を記録している「私」がいる。「私」とは自分の夢の中で、「君」の姿を見つけて、それを書き記している人物であるらしい。そう考えると、この小説は記述されているという現実に対して、少なくとも二つ以上の「夢」の層が重ねられていて、読み進めて行けばわかることだが、「夢の中の夢」の構造はどんどん重ねることが可能で、「夢の中の夢」の記述にはこんなシーン記されていたりするのです。​​​​​​​
十一月十四日
 何かを見る会、というあまりに簡素な名前の催しが毎年政府によって春開かれていて、その折々の首相がホスト役になっているというのだが、それがいつの間にか一万人を超えて参加といういかにも夢らしい規模にふくれあがり、中には現首相の後援会に所属する人々などが多く含まれていて問題になっているらしいのである。
 いわば税金を使って選挙運動をしているも同然だから、そんなあけすけな悪事が公式行事になるはずもないのだが、これまで誰も会のからくりを指摘しておらず、しかも年末にそれが突然ニュース化したという夢で、ただし君はむろん会に呼ばれるわけもなく、たとえ万が一呼ばれても友人同士で企画する花見で忙しいだろうし、着て行くフォーマルウェアといっても古着で買った穴だらけの燕尾服くらいしかないから出かけていくわけもなく、だからあくまでも傍観者として冷たい水など飲みながらスマートフォンの中の新聞アプリをのぞいている。
 一面に首相の言葉だという、こんな一文が大きな見出しとして載っている。
 私の判断で中止する。
 なんだかおかしな文だと君は感じる。何かを見る会がまるでこれまで首相一人の権限で開催されてきたように見える言葉だし、そもそも、中止は疑念解消の手段ではないのだから威張られても困ると夢の中で君は思っている。意味が通るようで通らないこうした言葉が本邦の首相によって次々とあふれ出していることへの嫌悪を、夢の第三段階にいるきみは強く感じている。
​ ​とまあ、こんな調子ですね。登場人物の夢の記述は、あくまでも小説創作上の架空の現実ですが、ここに記されている夢の「内容」の記述は、作品が商品として流通する社会、言い換えれば、作家と同じ世界に生きている読者が暮らしている社会で起こっている「事実」についての記述です。
 現実社会のこういうとり込み方には、小説としてどんな意図があるのだろうというのが、この小説を読ませていく牽引力の一つでした。​​
​ 「えっ?おもしろいけど、何がいいたいの?」
​ というわけですが、記述自体が、小説の構造とはかかわりなく面白いので、長々と引用しました。で、読者のぼくはここを読みながら、ふと、彼の「想像ラジオ」の方法を思い出したりしていました。あの作品では、架空のディスクジョッキーの受け取る「リクエスト電話」という設定でしたが、この作品では「夢」という設定です。​​​​
​​​ そんなことをつらつら考えながら読んでいると、驚くべきことに、翌日の「11月15日」の記述に「木村宙太」という聞き覚えのある名前が出てきたのです。
 「木村宙太」って誰だったっけ?​​​

 なんだか長くなりそうなので​(その2)に続きます。

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最終更新日  2023.04.28 09:51:47
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