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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2021.02.08
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​​佐藤真「阿賀に生きる」元町映画館 ​元町映画館​が企画に参加している「現代アートハウス入門」というシリーズの​第6夜​の上映に出かけました。​
​ この企画の面白いところは、いつもは「老人にやさしい映画館」が、この企画にかぎって厳しいことです。30歳未満の人たちは1200円で、超えると1800円という料金設定なのです。おそらく20代の人たちを映画館に呼びたいという気持ちの表れなのでしょう。​
 別に文句を言いたいわけではありません。ぼく自身が、30代の後半から映画を見なくなった大きな理由は料金でしたから、学生割引のことはよくわかりませんが、今でも、20代から40代の普通のサラリーマンにとって「映画」は結構、経済的に負担のかかる娯楽というか趣味だという気がします。
 だから、
​​​「オッ、安いな!」​​
​ ​と思って20代の方が映画館に来て、今回ライン・アップされているよう映画を初めてごらんになる。すると、上映されているのは、全員が、とは言いませんが、必ず心に残る方がいる感じの映画ですよね。そういう経験が新しい映画ファンを生み出していくというのは、なんだか、楽しいですよね。
​ ぼくは、今回の企画では、見ていないはずの映画を選んで来ていますが、今日の映画などは、本当に見てよかった作品でした。佐藤真「阿賀に生きる」です。​
 題名は知っていましたが、見る機会がありませんでした。​チッチキ夫人​​​
​「七芸でやってたよ。」​
​ ​と言っていましたが、今回、初めてみました。
 映画は、水浸しの​「田んぼ」​で稲刈りをしている老夫婦のシーンから始まりました。
 ぼくは田舎者なので、稲を刈る時期には​「田んぼ」​は干し上げるものだということも、いくら干しても水が引かない、ぼくの田舎では​「じゅる田」​と呼んでいた田んぼがあることを知っています。
 子ども心に、そういう田んぼに入るのは嫌でした。長靴を履いていても、膝近くまで沈んでしまい、靴の中まで、水や泥が入ってきて、その上、一歩一歩が難しいので、尻もちをついてしまったりするからです。
 映画の中の二人が足元に難渋しながら、曲がった腰つきで稲を刈り、ようやくのことで田んぼから這いだすのを見ながら、胸を突かれる思いでした。

​ 映画をおしまいまで見終えて、つくづく思いました。ぼくにとって、この最初の十数分のシーンにこの映画を見た「甲斐」のようなものが詰まっていたなあ、と。​
​​​ 野良仕事を、日々続けて、今や90歳を超えようかというこの老人に、町に嫁いだ娘さんからでしょうか、電話がかかってきます。もう、田んぼを作るのはやめたらどうかという、娘さんなりの気遣いの電話らしいのですが、老人は困惑と、かすかな怒りを感じさせる口調で返事をしています。そして、最後に
​​「ほいでも、わしのたのしみじゃでな。」​​​
​ という言葉で電話は切られます。​​​
 あの田んぼの収益は、一年間に、一斗どころか、五升にもならないでしょう。にもかかわらず、ただでさえ動かない足を引きずり、野良仕事が無理になった老妻を家に残して、泥にまみれて田を掻き、苗を植え、草を刈り、やがて、稲を刈って稲木に干すのです。
​​ それが生きている「楽しみ」であることを困った顔で訴える、90年の人生がそこに映っていました。​​
 彼をはじめとして、この映画に登場する人達は、男たちも女たちも、まっすぐに開かない手や、やけどをしても気付かない末梢神経の麻痺を、老いた自分の体として、笑って見せあいながら生きています。
 手が動かないことが我慢ならず船大工を黙って辞めて、人にも教えようとしない偏屈者もいます。
 いったん座ると、立つことが難儀で、どうしても動きたくないおばあさんもいます。
 重そうな杵を持って臼に向かった途端、大刀を振り下ろすかのように、見事に腰が据わる餅屋さんもいます。

​​​​ この映画は、阿賀野川流域で起こった、所謂、「新潟水俣病」の未認定患者たちを撮った映画です。しかし、彼らは​「被害者」​として生きているのではありません。ただの​「人間」​として生きているのです。この映画のすごさは、そこを撮ることができたことだと、ぼくは思いました。
 立ち上がるのが難しいおばあさんの膝はどうなっているのか、船大工が鉋を持つことができなくなった原因は、ホントに老化だけなのか、見ているぼくは、そこに「告発」すべき「悪」があることに、当然、気付きました。この映画は、確かに​「告発」​の映画なのです。
 しかし、映像は、そこから
​​​「人間として生きるとはどうことなのか?」​​
 ​と問いかけてくるのです。​「じゅる田」​があれば​「じゅる田」​を耕し、そこから「楽しみ」を収穫して生きてきた人間を描き通していると、ぼくは感じました。
 こんな映画にはそうそう出会えるものではないのではないでしょうか。​​​​

​ ​​​​​​​今夜のトークは震災後の陸前高田に暮らしながら映画を撮っていらっしゃるという小森はるか(映像作家)さんと、「里山社」という出版社を一人で経営している清田麻衣子(里山社代表)さんのお二人でした。「里山社」という出版社の名前は聞いたことがありましたが、小森さんには、すでに「空に聞く」とか「息の後」という劇場公開作品がおありだということは、初めて知りました。​​​​​​​​
​ ぼくから見ると、とても若い人たちで、映画の感想も、カメラマンや監督の「撮り方」・「つくり方」にフォーカスした話でしたが、若い監督が人間が生きている姿を映像化したいと志している様子に、好感を持ちました。​
​ ​小森さん​の作品については、えらそうで、申しわけないのですが
​「この人の映画なら、見てみなきゃあな」​​
​ と思わせる雰囲気が印象に残りました。
 お二人のトークは、こちら​「現代アートハウス入門」でご覧ください。​


監督 佐藤真
撮影 小林茂
録音 鈴木彰二
編集 佐藤真
音楽 経麻朗
整音 久保田幸雄
助監督 熊倉克久
ナレーター 鈴木彰二
1992年・115分・日本
配給:太秦
日本初公開:1992年9月26日
2021・02・05・元町映画館no73

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最終更新日  2024.06.02 12:16:41
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