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上田義彦「椿の庭」シネ・リーブル神戸 若き日の藤純子さんが、「緋牡丹のお竜」こと「矢野竜子」、を演じて一世を風靡した「緋牡丹博徒」シリーズが終わり、「関東緋桜一家」で東映を引退したのが1972年だったそうですが、ぼくが都会の街に暮らすようになって映画に夢中になったのは1974年ですから、ぼくにとって藤純子さんは、初めて見たときから「かつてのスター」でした。
なぜだかよくわかりませんが、こういう感覚はいつまでたってもぬぐえないものですね。当時、彼女が山場で見えを切る仁侠映画は、名画座では繰り返し上映されていましたから、当然、そのほとんどの作品を見ているはずなのですが、ずーっと過去の人でした。 それなのに、いや、だからこそでしょうか。オバーチャンになっているはずの彼女の姿が見たくてやってきた映画が「椿の庭」です。 この映画には、最近のお気に入り、シム・ウンギョンさんも出ているということで、ワクワクしながらやってきました。 「椿」、「紫陽花」、「藤」、「山笑う」という季語があるそうですが、刻一刻と表情を変えるかのような風にそよぐ「若葉の木立」、掃き寄せられる「落ち葉」、そして、再び「椿」、最後は「梅」だったでしょうか。なぜか「サクラ」は出てきません。 それから、「夕立」、「炎天の青空」、「時雨」、眼下に広がる「青い海」、庭木の陰にある「水鉢」と、そこで泳いでいる「金魚」。 夫の四十九日を済ませ、遠くから帰ってきた孫の「渚(シム・ウンギョン)」と暮らす「絹代(富司純子)」の世界が、実に丹念に映し出されていました。家屋の暗がりについて、その独特さを讃えた作家がいたことを思いだしましたが、室内の様子も、庭の植え込みの様子も、その場に差し込んでくる光が作り出す陰影が懐かしく印象的な映画でした。 娘の陶子(鈴木京香)が持ってきて父と姉の遺影に供える白いユリの花が、見ているぼくには、なぜか異物のように感じられ、一方で、遠い国で娘が生んだ渚のために用意したにもかかわらず、とうとう贈られなかった「小さな靴」が、絹子の遺品のように映し出されたとき、彼女の心の「陰影」が浮かび上がってくるようで胸を突かれました。 絹子と渚の心の陰影を、重ねるように描きながら、「庭」の花や木立、「部屋」の調度や間取りのシーンを丁寧に映し出す様子に、映画を撮っている人のこだわりを印象深く感じた映画でした。 それにしても、清水紘治といい、藤純子と言い、なんだか老けない俳優っているのですね。いや、それ相応の老人ではあるのですが。着物を着るシーンの藤純子の姿なんて、まあ、ほれぼれしましたね。 ああ、それから、シム・ウンギョンさん、今回もとてもよかったですね。彼女の表情というか、そこにいる姿が醸し出す不思議な「遠さ」、今回も健在でした。 庭のシーンが感じさせる視線のありどころなんて、自分自身の日々の暮らしそのものという気がしました。スクリーンに映し出される、何気ないシーンが、妙に心にしみる映画でしたね。 監督 上田義彦 脚本 上田義彦 撮影 上田義彦 撮影補 佐藤治 照明 八幡高広 録音 橋本泰夫 整音 野村みき 衣装 伊藤佐智子 ヘアメイク 赤松絵利 吉野節子 編集 上田義彦 音楽 中川俊郎 音楽プロデューサー ケンタロー キャスト 富司純子(絹子) シム・ウンギョン(孫:渚) 鈴木京香(次女:陶子) 清水紘治(旧友:幸三) チャン・チェン(税理士黄) 2020年・128分・G・日本2021・05・24・no49・シネ・リーブル神戸no95 追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.04.05 23:48:06
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