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河合雅雄「ゴリラ探検記」(講談社学術文庫)
「サル学」の河合雅雄が2021年5月14日に亡くなったというニュースを見ました。ジャーナリストの立花隆が「サル学の現在(上・下)」(文春文庫)という長大なレポートを書いて評判になって以来、サル学という言葉が普通名詞になりました。1990年代の初めのころのことでした。 しかし、今西錦司に始まる京大の「サル学」の世界、ニホンザル、ゴリラ、チンパンジーの社会に潜り込んで霊長類の生活や歴史を探る世界へ、ぼくたちのような素人を誘ってくれたのは、立花隆ではなくて、河合雅雄、井谷純一郎、西田利貞といった、今西門下の、みなさん、そろって、実に文章の上手なフィールド・ワーカーたちの報告でした。 中でも、河合雅雄は、子供向けの童話から翻訳まで手掛ける、「サル学読書界」のスター選手というべき人で、案内したい本が山積みですが、彼が世に問うた最初の本が「ゴリラ探検記」(講談社学術文庫)でした。 100メートルも行ったであろうか、ルーベンは鼻をぴくつかせていたが、しわがれた声で「ゴリラ」とささやいた。私にはなにも見えない。かすかな音も聞こえない。ルーベンはぐいと私の手をひっぱり木立の中をさした。二、三歩進んだ私は、思わず棒立ちになって息をのんだ。10メートル先に、巨大な漆黒の手が伸びているのを見たのだ。ゴリラだ!彼は私たちに気づかず、木の葉をたべていたのである。 長々と引用しましたが、「ニホンのサル学がゴリラと出会った瞬間」というべきの場面の描写です。学術文庫で、300ページを超える大作ですが、こうして写していてもワクワクしてきて、夢中になった記憶が浮かんできます。もう、35年も昔の話です。 山積みの中から、追々、案内したいと思いますが、これからも忘れてほしくない人ですね。冥福を祈りたいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.06.05 00:34:22
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