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石川慶「Arc アーク」109シネマズHAT神戸 40年以上も昔のことですが、当時、通っていた学校は六甲の中腹にありましたが、夕暮れ時になると眼下であかあかと燃える神戸製鋼の溶鉱炉の火炎が街を照らし出す、今となっても記憶の中に浮かび上がる印象的な風景をつくりだしていました。
1995年の震災を経て、神戸製鋼は本社ビルを残して神戸を撤退しましたが、その跡地は県立美術館や防災センターをはじめ、中学校、小学校、大型の商業施設がならぶHAT神戸という、新しい街になって、もう十数年経ちます。 その街の109シネマズHAT神戸という映画館に初めてやってきました。映画は「Arc アーク」という、話題の作家ケン・リュウという人のSF小説を原作にした作品です。 平日、月曜日の新しい映画館には客はいませんでした。久しぶりに一人試写会になるのかと期待しましたが、場内が暗くなる直前に三人の方が入場されて、4人試写会でした。3人の男性老人と20代半ばかと見える女性の4人でした。 映画は生まれたばかりの赤ん坊と、おそらく母親であろう女性がベッドに横たわっているシーンから始まりました。 ここから主人公リナ(芳根京子)が、昔の時代劇映画にクモの糸を操る児雷也という怪人がいたと思いますが、あの糸を操るような方法で「生き生きとした死体」をつくりだす施術師エマ(寺島しのぶ)に見いだされるという展開が映画の前半でした。 後半の展開はエマの弟で、天才(?)科学者天音(アマネ)(岡田将生)が開発する不老不死の施術をめぐってでした。 「生き生きとした死体」から「死なない身体」という展開です。「死なない身体」を手に入れたリナが、さてどうするのかというわけです。 「死なない社会」の中で「死ぬ人たち」を演じるのが小林薫と風吹ジュンで、モノクロのシーンが続きます。二人のの堅実な演技で物語はクライマックスを迎えますが、小林薫とリナの間の因縁の仕込み方が案外ありがちで、「まあ、いいけど・・・」という気分でラストシーンでした。 老いたサクラ、倍賞千恵子さんの登場です。ぼくは物語のラストというより、太陽の光に、老いた手をかざす彼女の姿に感動しました。 「不老不死の社会」が、ある種ディストピアであることや、死体に対するフェティシズムの新しい様相の提示、日にかざした掌や糸を操る施術のシーン、モノクロシーンでの小林薫の演技、面白く興味深いシーンやネタは満載なのですが、納得も満足もなかったのは何故なのでしょうね。 一つだけ言えそうだと思ったのは、この映画を作っている人、あるいは人々の「死」に対する、裏返せば「生」に対する認識が通俗の域を出ていないのではないかということですね。 「で、あなたは「生」についてどう思っているの?」 まあ、そんなふうに、もう一度問い返したい作品だったというわけです。 監督 石川慶 原作 ケン・リュウ 脚本 石川慶 澤井香織 撮影監督 ピオトル・ニエミイスキ 音楽 世武裕子 キャスト 芳根京子(リナ) 寺島しのぶ(エマ) 岡田将生(天音) 鈴木咲(ハル) 清水くるみ 井之脇海 中川翼 中村ゆり 倍賞千恵子 風吹ジュン 小林薫 2021年・127分・G・日本 2021・06・28-no59 109シネマズHATno4 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.11.02 22:55:51
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