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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
馳星周「ソウルメイト」(集英社)
市民図書館の返却の棚で見つけました。馳星周の「ソウルメイト」(集英社)です。2013年に単行本が出版されて、その後、「ソウルメイト」、「陽だまりの天使たち ソウルメイトII 」(集英社文庫)と文庫化されているシリーズの、まあ、第1巻ですね。一言でいえば「犬」の話でした。 馳星周が直木賞を取ったのは昨年、2020年ですが、彼が最初に評判になったのは「不夜城」という作品で、もう30年前のことです。新宿の夜を描いた「ノワール」小説だったと思います。評判になったころ読みましたが、忘れてしまいました。当時、作品よりも、馳星周という人が内藤陳というコメディアンがやっていた「深夜プラス1」という酒場の、アルバイトのバーテンだったことに、ミーハーな興味を持ちましたが、ぼくのなかで内藤陳が旗を振っていた「冒険小説」のブームが終わるとともに忘れていた作家でした。 で、昨年の直木賞で思い出しました。受賞作は「少年と犬」(文芸春秋)だそうです。 「えっ、まだ取っていなかったの?」 それが正直な、最初の感想でしたが、その次に来たのが、「犬って何よ?」という疑問でしたが、この作品を読んで氷解しました。 この方は「犬」が好きです。それも半端ではない「愛し方」です。この本には7頭の犬の話が書かれていますが、どの話も誰かが誰を「愛する」とか「信頼する」ということが、人間という枠を超えて描かれています。いや、犬という仲間を通して描かれているというべきでしょうか。 で、読み終えてわかるのですが、あの内藤陳さんが褒めたたえた「冒険小説」の血脈はここに流れていますね。何せ、題が「ソウルメイト」、「魂の友達」ですよ。 ぼくは、犬が嫌いなわけではありませんが、とりわけ好きなわけでもありません。そういう人間が、ページを繰ってみると、そこにあるのは「犬の十戒」です。「おいおい」というか、「ええー、なによ」とい気分でやり過ごして、本文に向かいました。マア、どっちかというと、あっという間に読み終えました。で、なんと「十戒」に戻ってきてしまいました。面白かったのでしょうね。 Be aware that however you treat me,I will never foget it. 第6の戒です。一番短いので写すわけではありません。「冒険小説」の真髄の一つだと僕が思うことが、戒律としてここにあると思うからです。言い直すとこんなふうになるでしょうか。 「ぼくのこの世界での経験は『魂のこと』として、ぼくのなかに刻み付けられていく。」 まあ、そういう生きざまの登場人物を描くこと、それが、件の「冒険小説」の要素の一つだったと思うのですが、「犬」と暮らすということと、実に、ぴたりと重なるのですね。 マア、馳星周がそう書いているということではあるのですが、犬好きの人はもちろん、その手のお話が好きな人にはぴったりかもしれませんね。ぼくは結構はまりました。直木賞の受賞作にも手を出してみようかなと思っています。なかなか読ませますよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.07.18 00:23:27
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