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100days100bookcovers 59日目
村山斉『宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎』 幻冬舎新書 前回、SODEOKAさんが取り上げた寺田寅彦の『柿の種』からどうつなげようかと最初は結構思い悩んでいたのだが、あるときにふと彼が「物理学者」であることを思い出した。ということで 以前試みて断念した「あさって」の方向へ跳ぶことにする。 『宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎』村山斉 幻冬舎新書 物理学は別にして、宇宙関連の話題は昔から割に好きなのである。 2010年に出た新書だが、実は読んだのは昨年。ずっといわゆる「積読」の中の一冊だったのだが、そのときに読んでいたリチャード・パワーズの『われらが歌う時』の上巻の読みにくさに音を上げて、一服しようと思って手にとったのがこれだった。 著者の村山斉は1964年生まれ。素粒子物理学の専門家。2000年よりカリフォリニア大学バークレイ校教授、2007年より2018年まで東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)の初代機構長。オフィシャルサイトを見ると現在は機構長は退いて、主任研究員ということらしい。 主な研究テーマは超対称性理論、ニュートリノ、初期宇宙、加速器実験の現象論など。とはいえ、まぁ何というか、名前くらいは聞いたことがあっても大半は「何言ってんのかわかんないんですけど」みたいな感想しか持てないわけだけれど。 さらに言えば、「数物」は数学と物理のことだと「序章」に書いてあるのだが、「数物」という、愛想もへったくれもない「短縮形造語」を組織のオフィシャな名前の一部にするというセンスはどんなものだろうかと訝らないでもない。が、それは本題ではないのでここでは置く。 本書は序章を除けば、5つの章から構成されている。 序章 ものすごく小さくて大きな世界 序章から第1章、第2章にかけては、わからないところはむろんあるがそういうところは適当に読み飛ばせば結構おもしろく読めたのだが、3章、4章はかなり怪しい。というよりほとんどわかっていない。5章になるとまたいくらかわかったような気になる、というところか。 それでも入門書ということもあって著者は、用語をやさしく言い換えたり喩えを使ったりと素人にもできるだけわかりやすく伝えようとしている。その姿勢はよくわかる。 ただ話が話だけにどうしても説明も専門的にならざるをえないところがあり、あとは読者次第なのだろう。 ちなみに今わかったのだが、本書、2011年度の新書大賞受賞作である。 では、ざっと内容を紹介する。 とにかくスケールの振れ幅の大きい話である。 宇宙のことを語りだす際に、著者はまず「大きさ」から始める。 東京タワーの高さを物理学でよく使う表現で表すと、およそ3X10の2乗メートル(実際は、10の右上に累乗の小さな2が乗っかっている表記の仕方)。スカイツリーは、6X10の2乗メートル。富士山は、桁数が1つ上がり10の3乗になる。 現時点で観測できる宇宙のサイズは1つの銀河団のさらに1万倍、10の27乗ということになる。 宇宙の10の27乗と素粒子の10の-35乗の間の途方もないスケールの隔たり。これが私たちの世界の「幅」だということになる。これをつなげるのが「ビッグバン」宇宙論。 ご承知のように「ビッグバン」は、 「宇宙は誕生直後から膨張を始め、現在の大きさになった」 という説。 私は昔からこれが不思議で、では宇宙が誕生する前は「そこ」に何があったのか、はたまたなかったのか。ただ「ない」ということがどういうことなのかがわからない。さらに「無」から「ビッグバン」がなぜ発生したのかも。ただ、「ビッグバン」説そのものには証拠も見つかっているとのこと。 話を戻すと、つまり膨張した現在の宇宙を遡れば、ビッグバン時の極小宇宙に戻る。素粒子の世界である。著者はこれを「ウロボロスの蛇」に喩える。 本書のテーマは大きく二つ。 まずは、物質は何でできているのか、そしてその物質を支配する基本法則はいかなるものか。 となると、後者のほうが話が専門的で複雑になるのはわかる。先述のように、物質は原子でできているわけだから宇宙の星も原子でできている。どんな原子なのかは光によって判定可能だ。 しかし、星から届くのは光だけではない。たとえばニュートリノ。これも素粒子の一つ。2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊の研究でも知られる。宇宙から飛んできたニュートリノを世界で初めて捕まえたのが岐阜県神岡鉱山地下に設置された「カミオカンデ」なる観測装置。 宇宙から大量に降り注ぐニュートリノを見つけるのは至難の業らしいが、1987年にカミオカンデで11個のニュートリノが検出された。これは大マゼラン星雲で起きた超新星爆発によって生じたものだという。何ででそんなことがわかるのかは、むろん私にわかるはずがない。 その超新星爆発は、銀河全体よりも明るくなるほどの光を放ったが、その光のエネルギーは爆発によって生じたエネルギーの1%にすぎない。99%はニュートリノによるものだった。それほど多くのニュートリノが放出されたからこそ、カミオカンデが11個を捕まえられた。 ちなみにその爆発した超新星は地球から16万光年の距離にある。ニュートリノも16万年かけてカミオカンデにやってきたというわけだ。空間的な大きさだけではなく時間的な長さにも目がくらむ。Wikiの「地球史年表」で確認すると、ホモサピエンスが現れたのが19万から20万年前。15万年前にはマンモスがヨーロッパに現れた頃。 しかし、「大マゼラン星雲」ってどこかで聞いたことがあるなと思ったら、『宇宙戦艦ヤマト』でヤマトが向かう「イスカンダル」が存在する星雲だった。 話を戻す。 現在一つめのテーマの物質は何でできているのかについては様々な新事実が明らかになっている。カミオカンデのスペックを大幅に上げたスーパーカミオカンデによってニュートリノがすべての星と同じくらい存在することがわかったのだが、ではすべてに星は宇宙の中でどの程度の割合を占めるのかといえば、これが何と0.5%。つまりニュートリノと併せてもわずか1%しかない。ただしこれは質量ではなくエネルギーに換算した結果。でもアインシュタインの「E=MC2」(2は2乗の意)によってこれが成り立つ。 では残りは何か。星以外の宇宙にあるすべての原子をかき集めても全エネルギーの4.4%にしかならない。原子以外のものが96%ほどを占めている。これがわかったのが2003年。つい最近だ。 残りの約96%が何かはまだ判明していない。しかその一つには名前だけは付いている。「暗黒物質」(ダークマター)。この呼称はおそらくかなり前からあったはず。 いずれにしろ正体不明ではあるが存在することはわかっている。なぜなら、ニュートリノと同様、それが存在するのを前提にしないと説明できないことがたくさんある。 重力を計算しても星やその他の原子をだけでは、間に合わない。暗黒物質は宇宙全体に遍在している。それが全エネルギーに占める割合は23%。これを加えてもそれでもまだ27%くらい。 残りは何かというと、これも名前だけは付いていて「暗黒エネルギー」(ダークエネルギー)。紛らわしいネーミングだ。 暗黒物質と暗黒エネルギーの違いは何か。 暗黒物質は、正体不明とはいえ物質としての振る舞いをする。宇宙の膨張につれ密度が薄まる。しかし暗黒エネルギーは密度が薄まらない。さらにいえば、そんな不気味なエネルギーを前提にしなければ、宇宙の膨張が「加速」しているという「非常識」な現象が説明できない。 宇宙の膨張については、永遠に膨張し続けるのか、極限まで膨張してから収縮に転じるのか、いずれかで、どちらも膨張のスピードは徐々に減速することが前提だった。ところがつい最近になって、膨張が加速していることがわかった。その原因、つまりビッグバンの際に「投げ上げられたボール」が減速しないように後押ししているのがその「暗黒エネルギー」だと考えられている。その得体のしれないエネルギーが宇宙の約70%を占めている。 著者によると、宇宙に関しては、21世紀に入ってから「わからない」ことが数多くあるとわかったんだそう。 先ほどの暗黒物質と暗黒エネルギーもそうだが、反対に「存在しない」ことが不思議なものもあるという。「反物質」がそれ。 すべての物質には、性質は同じで電荷だけが反対の「半物質」が存在する。ビッグバン時には「物質」同様「反物質」も同じだけ生まれたはず。しかし現在の宇宙には自然状態で存在する「反物質」が見当たらないという。あるいは物質の「質量」がそれによって生まれると考えられる未知・未発見の粒子がある。それが莫大な量だと推測され、しかしその実態はすべてが謎だという。 実はここまででまだ第1章。せめて第2章までは紹介したいと思っていたのだが、難しそうなので後は、いくつか簡単にピックアップするだけにする。 ・望遠鏡は宇宙のどこまで見られるのか。スペックを上げていけば宇宙の「果て」まで見られるのかというとそうではない。それは技術的な問題ではない。約130億光年先の銀河が限界。なぜか。130億光年先の星を見るということは、130億年前の星を見るということになる。宇宙の誕生は今から137億年前と推定されるが、誕生から2億年ほどの宇宙はまだ星ができていない状況。そこには光というものがない。ばらばらの原子と暗黒物質だけ。だから望遠鏡では見られない。 ・太陽内部では、水素が核融合反応を起こしてヘリウムに変換され、膨大なエネルギーを生み出しているが、45億年ほど先に水素を使い果たした太陽はヘリウムを燃やし始める。その時に太陽は地球を呑み込む膨張しているはずだが、もしかしたらその前に天の川銀河がアンドロメダ銀河と衝突しているかもしれない。 ・「クォーク」はジェイムス・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の中に出てくる「鳥の鳴き声」から採られた名前。 ・素粒子には、「排他原理」の働かない、同じ場所にいくらでも詰め込める性格をもつものもある。 ・デンマーク出身のボーアらが唱えた、量子力学における「コペンハーゲン解釈」は、観察者が「見る」まで、ある粒子の位置は決められないというもので、当初はアインシュタインやシュレーディンガーも異を唱えたが、現在は物理学のスタンダードな考え方になった。 ・量子電子力学では荷電粒子同士の「光子の交換」で説明する際に「ファインマンズ・ダイアグラム」で図示されるが、図では、「反粒子」は時間を逆行することになる。これはちょうどノーランの『テネット』を観て間もない折りだったので結構おもしろがれた。 ・暗黒物質がもしなかったら、そもそも太陽系や銀河系自体が存在せず、つまり私たちも存在していないはずである。 ・物質と反物質が出会うと互いに消滅する。なぜ現在、宇宙に反物質がなく物質しかないのは、最初の段階で物質が若干だけ多かったからで、その差は計算すると、10億分の2。でもなぜこの差がついたのかは、まだわかっていない。言ってみれば私たちが宇宙に存在する理由が物理的にはまだわかっていないということである。 ・宇宙の終わりについて。もし膨張が止まったら、その後収縮が始まり、やがて潰れる。これを「ビッグクランチ」という。ただこれは宇宙の膨張が減速するという仮定の基に考えられていた。実際は先述の通り、膨張は加速している。膨張速度が無限大に達した時には「ビッグリップ」(「rip」は引き裂く」の意)が起きる。銀河系も星もばらばらになって分子や原子になり、さらにそれらも素粒子になる。 ・私たちの身体は超新星爆発の星くずでできている。 中途半端な紹介になってしまった。よくわからなかった第3章、第4章についてはほとんど触れられなかった。ということで、本書は、文系の私にはわからないところも随分多かったが、読んでいる間はずっとわくわくしていた。妙な「高揚感」みたいなものがあった。 たぶん昔から、大風呂敷の話が好きだった。それが現在の日常に関係あろうがなかろうが、役に立とうがそうでなかろうが、広い見晴らしのいい風景や視野が開けるだけで何となく気分がいい。穏やかな気分になれる。 読み終えて改めて思ったのは、私たちの生存は「奇跡」的な確率の積み重ねによって初めて叶えられているということである。 では、次回、DEGUTIさん、お願いします。(T・KOBAYASI・2021・01・15) 追記2024・03・25 100days100bookcoversChallengeの投稿記事を 100days 100bookcovers Challenge備忘録 (1日目~10日目) (11日目~20日目) (21日目~30日目) (31日目~40日目) (41日目~50日目) (51日目~60日目)) (61日目~70日目) (71日目~80日目)という形でまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと備忘録が開きます。 追記 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.03.28 22:54:12
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