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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
週刊 読書案内 吉田篤弘「電球交換士の憂鬱」(徳間文庫)
吉田篤弘の小説を案内するなら「つむじ風食堂の夜」(ちくま文庫)からにするべきなんじゃないかとは思うのですが、最近、偶然、読んだのでこっちからということになりました。 今日の案内は吉田篤弘「電球交換士の憂鬱」(徳間文庫)です。 ご覧のように、表紙は灰色の地に、なんだか古めかしい電球が黒く描かれていて、ギリシア風の女性でしょうか、何か掌に載せていますが、よくわかりません。 ページを開くと「目次」とあって電球の挿絵です。もう一枚めくるとこんな感じです。 不死身 7全部で7章、オシリについているのはページ数のようです。で、もう2枚ページをめくると始まります。 「道に詳しいのに、自分の行き先がわからないもの、なあんだ」 場所はバー〈ボヌール〉のカウンター、語っている「おれ」は酒も飲めないのに常連で、謎謎を仕掛けてきたマチルダをはじめ、春ちゃんとか、西園寺なにがしという刑事なんだかタクシーの運転手なんだかよくわからない謎の男とか、夜な夜な集まってだべっているのが、まあ、作品の発端というか舞台ですね。 バー〈ボヌール〉のママについてはこんな風に書いてあります。 ママは自分の煙草の煙に目を細めていた。その立ち姿は、オレに云わせれば「とびきりの一級品」である。美女とか何とかを超越している。(P14) 7章立ての短編集の体裁をとった物語の始まりというわけで、登場人物の紹介です。まあ、詳しくはお読みいただくほかないわけですが、さすがにこれは言っておいたほうがよろしいでしょうというのが、書名にも出てきますが、主人公「おれ」のお仕事のことです。 さて、おれはいよいよ「おれ」について話さなくてはならない。 主人公というか、出来事の語り手は「おれ」で、彼の職業が「電球交換士」というわけです。ほかの登場人物たちの職業は、案外ありきたりというか、現実的なのですが、「おれ」は「電球交換士」なわけです。皆さん、電球交換士って知ってますか? マア、この後もしばらく自己紹介が続くのですが、いかがでしょう。かなりご都合主義で、かつ牽強付会な論理展開なのですが、とりあえず、こういう「おしゃべりな文章」がお嫌いでない方には、この小説は悪くないと思いますよ。 で、まあ、読むにあたって問題は、その電球交換士とやらが、いったい何をするのかということなのですが、もちろん、電球を交換するのです。実際、美術館とか博物館とかの天井の電球から、とどのつまりは「東京タワー」と思しき展望台の電球交換の話まで出てきます。 でも、そういう仕事の話を読まされたにしても、「そりゃあそういうお仕事もあるでしょうよ」とは思いますが、「早死に」から「不死身」への変身と、電球交換がどうつながるのか、という、あっけにとられるような職業選択の「理由」というか「秘密」はわかりませんね。 そろそろお気づきでしょうが、この小説はその「理由」だか「秘密」だかを「ミステリー」というか「謎」にして読ませる作品なのですね。 すまして言えば「時間」をめぐって、冒頭の謎謎「道に詳しいのに、自分の行き先がわからないもの、なあんだ」を追いかけている話だといえないわけではないのですが、まあ、「灯り」ネタの小話集といえないこともないというのが感想でした。 読み終わってみると、フーンという感じで軽いのですが、ちょっと残るというのは、たぶん「時間」ネタのせいですね。吉田篤弘のいつもの手だと思いました。 ちなみに。主人公の名前は十文字扉(じゅうもんじとびら)さんで、交換して回る電球は「十文字電球」ですね。皆さんは「十文字電球」ってご存じでしょうか?マア、それよりなにより、白熱電球って、お宅にあります? もう一つ、ちなみにですが、ご存じの方は、当然ご存じなわけですが、吉田篤弘は「クラフトエビング商会」の事務員さんですね。もう一人の吉田浩美さんがデザイナーらしいですが、ありもしない本を作ったりして評判の会社です。 そうそう、ちくまプリマ―新書のブックデザインとかやっている、あの会社です。マア、今や事務員稼業より、小説書きのほうが忙しそうですが。(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.09.27 12:28:04
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