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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2021.11.02
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​​チャン・ヤン「ラサへの歩き方  祈りの2400km」元町映画館​​ ​「映画で旅する世界」​という特集プログラムが​元町映画館​で始まりました。なんとなく題名に惹かれ、あてずっぽうで出かけた映画が​チャン・ヤン​という監督の​​「ラサへの歩き方」​​という、5年ほど前に撮られた​中国映画​でした。


​​
​ 中国といっても、​チベット自治区​を舞台にした映画で、上の地図にあるように​マルカム​というところから​ラサ​という首都で​ポタラ宮殿​という寺院というか行政府というかがある町に詣でて、そこから​カイラス山​という​「チベット仏教」​の聖山まで巡礼する話でした。
 距離にして
​2400キロ
​ ​だそうで、映画の中に流れている時間としては、風景の変化と子供の成長で​​
「感じる」時間
​ ​なのですが、帰ってきて調べてみると、
​ほぼ、1年かけて「歩いた」話
​ だったようです。こういうのも、​ロード・ムービー​とかいうのでしょうか。​
 映画が始まってしばらくのあいだは​ドキュメンタリー​だと思いこんで見ていましたが、旅の途中で勃発する事件というか事故というかが、あまりに劇的なので、なんか、ちょっとこれはと「脚色」を疑いました。人が生まれて死ぬという「実際」が10人ほどの旅の仲間のうちで、みんな起こるわけですから、いくらなんでも、ドキュメンタリーでは無理でしょうという気がしたわけです。
 ​「生まれる」​というのは、妊娠して、身重の身体なのに参加した女性が出産するという、まあ、信じられない出来事なのですが、その出産の現場もリアルに撮影していますし、その後の赤ん坊と母親の様子を見ていて、不自然とは思いませんでした。
​ ​「死」​は、参加していた最高齢の老人が、​カイラス山​に近づいたあたりから体調をこわし、山のなかのテントで亡くなります。​「鳥葬」​を思わせる葬儀なのですが、その葬儀も山中で執り行われます。これまた、不自然な感じはしませんでしたが、この辺りは、さすがに脚色された「お芝居」だったのでしょうね。​
​​ 見終えた感想は
ただ、ただ、うちのめされました!
 ​でした。
 で、何に打ちのめされたのか。
 映画は、村で巡礼の話が出て​「それはいいことだ、私も参加する」​というノリで、人が集まり始めるところから始まります。村の生活がリアルに撮られていて、まさに辺境ドキュメンタリーです。
 で、その巡礼計画ですが、若夫婦が参加する家族のオバーチャンが​「小さな子供の世話はわたしには大変だから、子供も連れて行きなさい。」​とかいうのです。そういう会話を聞いている限り、
「まあ、その程度のことなのだろう」
​ と​高をくくって見てしまうと思いませんか?
 参加者が決定していくプロセスでも​「それにしても身重の女性とか、小さな子供まで1000キロを超えて歩いたりできるのかな?」​そんな感じでした。
 で、出発の朝がきます。幌馬車みたいな荷車をトラクターが引っ張っているのを見て、まだ高を括っていました。​​

 ​​
「そうやろう、トラクターか、なるほどな。」
​​ で、先頭をくるくる回る、あの独特の​「摩尼車」​というのだと思いますが、​「自動お経唱え器」​のようなものを手にした先導役の老人が歩き始めると、残りの人たちがエプロンのようなものをつけ、手に下駄状の、だから手下駄でしょうか、をつけて、一斉に始めたのです。
​五体投地!
​​ ぼくだって、言葉では知っています。大地に身を投げ出す。女も男も子供も老人も、何度かお祈りをして​​
「エイ!」
​ ​とばかりに投げ出して、おでこを地面で打ちながらお祈りをする。立ち上がると数歩歩いて立ち止まり、再び​「エイ!」​です。 
「マッ、まさかこれで2400キロ!?」
 その、まさかでした。暮らしている村のはずれから、延々と、チベットの山々の中、ヒマラヤの向こうの、ものすごい風景の中の長い長い道を、五体投地で進み続けるのです。
 信仰だの、教義だの、理屈だの、生活だの、私だの、あなただの、生だの、死だの、そういうことはともかく、数歩歩いて、むにゃむにゃ唱えて、​「エイ!」​
​ ただただ、目を瞠るシーンが延々と続きます。生まれたら背に負われて、死んだら上空を大鷲が待っている高い山の上に座らされて​「エイ!」​です。
 見ているぼくは、何ともいえず頼りない「生」を生きていることをしみじみと実感しました。見ているときには、驚きに我を忘れていたのでしょう、あっけにとられる気分でしたが、帰り道をいつものように歩いていると、少女や子供をおぶったお母さんの​「エイ!」​の姿が思い浮かんできて、なんだかよく分からないのですが、涙が止まらなくなって困りました。もちろん、少女、その女性に同情したとか、かわいそうだと思ったとかではありません。
 ただただ、打ちのめされたということなのでしょうね。それにしても、この迫力はただ事ではありませんね。うまく言えないのですが、自分の中で動くものを感じる映画でした。​

​​ ​「エイ!」​五体投地を繰り返し続けた​十数人の村の人たち​拍手!
 旅の途中に生まれてきて。お母さんの背中で五体投地しながら育っていった、かわいらしい​赤ん坊テンジン君​​拍手!​​​

 ああ、そうだ、​7歳​で参加した​少女タツォちゃん​にも​拍手!​
​ いやー、まいりました。すごいのなんのって(笑)
監督 チャン・ヤン​

脚本 チャン・ヤン
撮影 グオ・ダーミン
2015年・118分・中国
原題「岡仁波斉 Paths of the Soul」
2021・10・29‐no101・元町映画館no90



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最終更新日  2024.06.03 17:15:24
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