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カテゴリ:映画 香港・中国・台湾の監督
チャン・ヤン「ラサへの歩き方 祈りの2400km」元町映画館 「映画で旅する世界」という特集プログラムが元町映画館で始まりました。なんとなく題名に惹かれ、あてずっぽうで出かけた映画がチャン・ヤンという監督の「ラサへの歩き方」という、5年ほど前に撮られた中国映画でした。
中国といっても、チベット自治区を舞台にした映画で、上の地図にあるようにマルカムというところからラサという首都でポタラ宮殿という寺院というか行政府というかがある町に詣でて、そこからカイラス山という「チベット仏教」の聖山まで巡礼する話でした。 距離にして 2400キロ だそうで、映画の中に流れている時間としては、風景の変化と子供の成長で 「感じる」時間 なのですが、帰ってきて調べてみると、 ほぼ、1年かけて「歩いた」話 だったようです。こういうのも、ロード・ムービーとかいうのでしょうか。 映画が始まってしばらくのあいだはドキュメンタリーだと思いこんで見ていましたが、旅の途中で勃発する事件というか事故というかが、あまりに劇的なので、なんか、ちょっとこれはと「脚色」を疑いました。人が生まれて死ぬという「実際」が10人ほどの旅の仲間のうちで、みんな起こるわけですから、いくらなんでも、ドキュメンタリーでは無理でしょうという気がしたわけです。 「生まれる」というのは、妊娠して、身重の身体なのに参加した女性が出産するという、まあ、信じられない出来事なのですが、その出産の現場もリアルに撮影していますし、その後の赤ん坊と母親の様子を見ていて、不自然とは思いませんでした。 「死」は、参加していた最高齢の老人が、カイラス山に近づいたあたりから体調をこわし、山のなかのテントで亡くなります。「鳥葬」を思わせる葬儀なのですが、その葬儀も山中で執り行われます。これまた、不自然な感じはしませんでしたが、この辺りは、さすがに脚色された「お芝居」だったのでしょうね。 見終えた感想は ただ、ただ、うちのめされました!でした。 で、何に打ちのめされたのか。 映画は、村で巡礼の話が出て「それはいいことだ、私も参加する」というノリで、人が集まり始めるところから始まります。村の生活がリアルに撮られていて、まさに辺境ドキュメンタリーです。 で、その巡礼計画ですが、若夫婦が参加する家族のオバーチャンが「小さな子供の世話はわたしには大変だから、子供も連れて行きなさい。」とかいうのです。そういう会話を聞いている限り、 「まあ、その程度のことなのだろう」 と高をくくって見てしまうと思いませんか? 参加者が決定していくプロセスでも「それにしても身重の女性とか、小さな子供まで1000キロを超えて歩いたりできるのかな?」そんな感じでした。 で、出発の朝がきます。幌馬車みたいな荷車をトラクターが引っ張っているのを見て、まだ高を括っていました。 「そうやろう、トラクターか、なるほどな。」 で、先頭をくるくる回る、あの独特の「摩尼車」というのだと思いますが、「自動お経唱え器」のようなものを手にした先導役の老人が歩き始めると、残りの人たちがエプロンのようなものをつけ、手に下駄状の、だから手下駄でしょうか、をつけて、一斉に始めたのです。 五体投地! ぼくだって、言葉では知っています。大地に身を投げ出す。女も男も子供も老人も、何度かお祈りをして 「エイ!」 とばかりに投げ出して、おでこを地面で打ちながらお祈りをする。立ち上がると数歩歩いて立ち止まり、再び「エイ!」です。 「マッ、まさかこれで2400キロ!?」 その、まさかでした。暮らしている村のはずれから、延々と、チベットの山々の中、ヒマラヤの向こうの、ものすごい風景の中の長い長い道を、五体投地で進み続けるのです。 信仰だの、教義だの、理屈だの、生活だの、私だの、あなただの、生だの、死だの、そういうことはともかく、数歩歩いて、むにゃむにゃ唱えて、「エイ!」 ただただ、目を瞠るシーンが延々と続きます。生まれたら背に負われて、死んだら上空を大鷲が待っている高い山の上に座らされて「エイ!」です。 見ているぼくは、何ともいえず頼りない「生」を生きていることをしみじみと実感しました。見ているときには、驚きに我を忘れていたのでしょう、あっけにとられる気分でしたが、帰り道をいつものように歩いていると、少女や子供をおぶったお母さんの「エイ!」の姿が思い浮かんできて、なんだかよく分からないのですが、涙が止まらなくなって困りました。もちろん、少女、その女性に同情したとか、かわいそうだと思ったとかではありません。 ただただ、打ちのめされたということなのでしょうね。それにしても、この迫力はただ事ではありませんね。うまく言えないのですが、自分の中で動くものを感じる映画でした。 「エイ!」と五体投地を繰り返し続けた十数人の村の人たちに拍手! 旅の途中に生まれてきて。お母さんの背中で五体投地しながら育っていった、かわいらしい赤ん坊テンジン君に拍手! ああ、そうだ、7歳で参加した少女タツォちゃんにも拍手! いやー、まいりました。すごいのなんのって(笑) 監督 チャン・ヤン 脚本 チャン・ヤン 撮影 グオ・ダーミン 2015年・118分・中国 原題「岡仁波斉 Paths of the Soul」 2021・10・29‐no101・元町映画館no90 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.06.03 17:15:24
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