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カテゴリ:読書案内「社会・歴史・哲学・思想」
松村圭一郎「うしろめたさの人類学」(ミシマ社)
最近、いや、まあ最近とも言えないのかもしれません、何しろ今日の、この本は2017年初版だから、5年も前の本です。 が、まあ、なんとなく手に取る人文科学関連の「素人向け(?)」の入門書(?)に、「ためらい」とか「その日暮らしの」とかの枕詞がつけられて本屋さんに並べられているのが増えたような気がします。 後ろに続くのが「社会学」とか「倫理学」とか、「普通に暮らす」人にはとおい名詞なので、そういう、なんとなく「やわらかい」工夫がいるのでしょうが、何となく「売らんかな」を感じて、ちょっとウザイですね。 そういう勝手な偏見を持っているのですが、本書が「構築人類学入門」という書名であれば、手にとったはずはないわけで、やっぱり「うしろめたさ」は必要なのかもしれません。 著者は、もちろん、文化人類学の学者さんで、フィールドはエチオピアだそうです。ぼくは1964年の東京オリンピックでシューズを履いて優勝したアベベ・ビキラというマラソン選手しか知りません。 内容は「ミシマ社」という、取次を通さずに本を売ろうと奮闘している出版社の「みんなのミシママガジン」というウェブ・マガジンに2009年から2013年に連載した「〈構築〉人類学入門」というエッセイの書籍化であるそうです。 「構築人類学」については本書にこんな解説が載っています。 構築主義という考え方がある。何事も最初から本質的な性質を備えているわけではなく、様々な作用のなかでそう構築されてきた、と考える視点だ。よくあげられる例は、「ジェンダー」だろう。男性は生まれた時から「男らしさ」を持っているわけではない。社会の制度や習慣によって「男らしさ」を身につけてきた。だから「男らしさ」は社会的に構築されてきた。そう考える。(P15) 「ジェンダーだろう」と、まあ、当然の用語として使っておられますが、ぼくは「ジェンダー」という用語が、実はよく分かっていなません。「用語の構築性から説明しろよ」と云いたいところだが、ここでは「男らしさ」とか「女らしさ」と呼ばれる性別に対する社会的な「共通認識」について、その内容は「歴史的」・「社会的」につくりだされたものだ、くらいの理解でいいのでしょうね。フーコーの権力論とか、柄谷行人の近代文学論とかが思い浮かびますが、ここでは直接関係はなさそうです。 で、本論はというと、現実の現象として「構築的」に表れている「貧困」であるとか「格差」に対する眼差しについてなのですが、こんな例が挙げられていました。 数年前に大阪の地下鉄の駅で見かけた小柄な老婆の姿が目に焼き付いている。きちんと身だしなみを整えたその女性は、にぎやかな人並みに背を向け、小さな布の上で、ひとり壁に向かって正座したまま、じっとしていた。あの女性が社会から孤立しているのは、たぶん彼女だけの選択の結果ではない。私も含め、彼女の姿を視線の隅でとらえながらも、「関わらない」という選択をした多くの人びとが、おそらくは、その現実を一緒になってつくりだしている。(P14) 「関わらないこと」が「ふつう」であるという、我々の社会の「構築性」ということに気づけない、気づかないということついて、「関わらないという選択をした多くの人びとが、おそらくは、その現実を一緒になってつくりだしている。」という発言に現れているのですが、じゃあ、それに気づくにはということで、エチオピアが出てきて、これが結構面白いのですね。 こうやって、ウダウダ写していて、小説家の保坂和志とかが、文学の「面白さ」に対して、たとえば「読書実録」でやろうとしていることとつながっているのかなあとか思うのですが、そんなことを急に言われても、読んでる人は困るでしょうから、本書に戻ります。 で、とりあえず著者の「主張」らしきことをまとめると、気づいたときの態度としての「うしろめたさ」が出てくるんですね。 ぼくらは「これが正しいのだ!」とか、「こうしないとだめだ!」なんて真顔で正論を言われても、それを素直に受け入れることができない。でも、目の前で圧倒的な格差や不均衡を見せつけられると、誰もが何かしなければ、という気持ちになる。バランスを回復したくなる。 理不尽なのが構築性なのか、構築性の結果が理不尽なのか、ともかくも、目の前にある社会を見る時に、「関係ない」じゃなくて、「何とか関係を持つ」ための武器として、「うしろめたさ」があるかもしれませんよということですね。 そう見えたから何が起こるのか、それは一概に言えませんが、「関係あるんじゃないか」というふうに見えれば、少なくとも、見えた本人の主体は揺さぶられるわけで、まずは、それが大事なんじゃないか、そういう主張だったと、ぼくは読みました。 この次に何を言い出すのか、ちょっと気になる本でしたが、きっともう出ているんでしょうね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.12.27 01:00:32
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