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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2022.02.07
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​​​須賀敦子「遠い朝の本たち」(ちくま文庫)その2​​​

​​ 須賀敦子「遠い朝の本たち」(筑摩書房)「案内」を始めて、彼女の早すぎる死と、短すぎる執筆期間に気を取られて、あれこれ書いているうちに長くなってしまったので、「その2」に譲ることにして、投稿の記事を終えました。​​
 というわけで、今日は「その2」です。
​​ このエッセイ集の最後の文章は「ダフォディルがきんいろにはためいて・・・」という、若き日の彼女の詩との出会いを綴った美しい文章ですが、そこで、彼女はワーズ・ワースという、19世紀初頭のイギリスのロマン派詩人の「The Daffodils」という、かなり有名な詩を話題にして学生時代の思い出を語っています。​​
​ ぼくはロマン派に限らず英国の詩人なんて全く知りませんが、彼女の文章を読んでいたちょうどその日に団地の庭に咲いている水仙の花を写真に撮ってきたところで、ちょっと嬉しかったということにすぎません。​
 それが上の写真ですが、彼女の文章はこんな感じです。
谷や丘のずっとうえに浮かんでいる雲
みたいに、ひとりさまよっていたとき、
いきなり見えた群れさわぐもの。
幾千の軍勢、金いろのダフォディル。
みずうみのすぐそばに、樹々の陰に、
そよ風にひらひらして、踊っていて。

 この詩を、私たちは英語で暗唱させられていた。暗記というのは正確でない。暗唱させられるのだった。大きな声で、ひとりひとり直立して、暗記した詩をみなのまえで朗誦するだから。典型的な強弱四歩格の単純な詩行で、内容もいま読むとむしろほとんど幼いほどの自然描写なのだけれど、目をつぶると、丘の斜面に群れ咲くダフォディルが風に揺れた。
​ ​​ページの上に貼っている写真は、彼女が訳しているダフォディル、花全体が黄色いラッパ水仙ではなくて、いわゆる日本水仙と呼ばれる花で、そこがなんとも残念だったのですが、それでも、まあ、なんとなくな偶然がうれしくてこうして案内しているわけです。​​
​​ 彼女がここで思い出しているワーズ・ワース「ダフォディル」という詩の原文はこれです。英詩のお好きな方には常識なのでしょうが、ぼくなどには難しすぎるので、岩波文庫版の訳もつけておきます。彼女の訳は、この詩の冒頭部分ですが、1950年ころの岩波文庫の田部重治(たなべしげはる)という方の訳と少し違います。何となく、彼女の性分が出ているようで面白いですね。​​
 The Daffodils
       William Wordsworth

I wander'd lonely as a cloud
That floats on high o'er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host of golden daffodils,
Beside the lake, beneath the trees
Fluttering and dancing in the breeze.

Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,
They stretched in never-ending line
Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance
Tossing their heads in sprightly dance.

The waves beside them danced, but they
Out-did the sparkling waves in glee:
A poet could not be but gay In such a jocund company!
I gazed - and gazed - but little thought
What wealth the show to me had brought.

For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills
And dances with the daffodils.

  水 仙
     ウィリアム・ワーズワース(田部重治訳)

谷また丘のうえ高く漂う雲のごと、
われひとりさ迷い行けば、
折りしも見出でたる一群の
黄金(こがね)色に輝く水仙の花、
湖のほとり、木立の下に、
微風に翻りつつ、はた、踊りつつ。

天の河(あまのがわ)に輝やきまたたく
星のごとくに打ちつづき、
彼らは入江の岸に沿うて、
はてしなき一列となりてのびぬ。
一目にはいる百千(ももち)の花は、
たのしげなる踊りに頭をふる。

ほとりなる波は踊れど、
嬉しさは花こそまされ。
かくも快よき仲間の間には、
詩人(うたびと)の心も自ら浮き立つ。
われ飽かず見入りぬ──されど、
そはわれに富をもたらせしことには気付かざりし。

心うつろに、或いは物思いに沈みて、
われ長椅子に横たわるとき、
独り居(ひとりい)の喜びなる胸の内に、
水仙の花、しばしば、ひらめく。
わが心は喜びに満ちあふれ、
水仙とともに踊る。

​​​ ここまでお読みいただいて、どうも、ごくろうさまでした。こういう詩に心がときめくという年ごろが、まあ自分にもあったことや、大学や高校の教員が学生に読ませたがる時代があったりしたことが、ぼくには懐かしいのですが、ウイリアム・ブレイクとかウイリアム・ワーズワース​とか、この年になって翻訳で読み直したりしている、だって、翻訳でないと歯が立たないのですから、自分の教養のなさもまた、つくづくと感じるのでした。​


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最終更新日  2024.02.16 22:32:41
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