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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2022.04.07
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100days100bookcovers no70
​色川武大「狂人日記」(福武文庫・講談社文芸文庫)​​
 KOBAYASI君星野博美『のりたまと煙突』から、「内省」をバトンにして、DEGUTIさんが差し出してくれたのは庄野潤三『夕べの雲』でした。
 作品名を見ながら、ふと、浮かんできたのは​​
​「ああ、いよいよ、出発点かあ・・・」​​​
​ という感慨でした。
 ぼくがこの作家の名前に出会ったのは高3の時でした。私淑していた世界史の先生の下宿の棚から借り出した江藤淳「成熟と喪失」(今では講談社文芸文庫、当時は、たぶん、河出書房の単行本)という「第三の新人」を論じた評論の中でのことです。変なことを詳しく覚えているようですが、今思えばそれがぼくの「文学オタク」の始まりだったからなのかもしれませんね。
 「オタク少年」は、翌年の一年間、午前中しか学校がない浪人生活をいいことに、「成熟と喪失」で論じられた作家たちを読みふけったわけですが、その中で、その後も読み続けたのが、遠藤周作吉行淳之介ではなくて、庄野潤三安岡章太郎、そして小島信夫だったというところに、まあ、「性根」の好みがあらわれているようでおもしろいですね。

 庄野潤三『プールサイド小景』で芥川賞を取ったのが1955年で、ぼくが生まれた翌年です。昭和30年。以後、一年間だったかのアメリカ留学の生活をつづった『ガンビア滞在記』、初期の代表作とも言うべき、釣りをする父と息子の話を書いた『静物』、で、『夕べの雲』1965年です。
 作風は、DEGUTIさんのおっしゃるように「平和な家庭の風景」「おだやか」「ユーモラス」な描写ということなのですが、うまく言えませんが、どこかに「喪われたもの」「壊れそうなもの」「不安定」を感じさせるところのある「おだやかさ」に惹かれたのでしょうね。たとえば、DEGUTIさんが引いていらっしゃる、こんな描写がぼくは好きです。
​​ 家ごと空に舞い上がって、その中には寝間着をきた彼と細君と子供がいて、
「やられた!」
と叫んでいる。
 そういう場面を空想するのなら大風の方がよく似合う。台風では、そうはゆかない。​​
 長々と思い出話をしてきましたが、バトンは
​「読売文学賞」​
 ​です(笑)。
 なんだ、それなら、さっさとそっちに行けばいいじゃないかと言われそうですが、庄野潤三は読み直したい人でもあって、語りたかったのでしょうね。

 ​​『夕べの雲』​​​読売文学賞​を取ったのは​1966年​ですが、23年後、​1989年​の受賞作が​色川武大「狂人日記」(福武文庫、今は講談社文芸文庫)​でした。
​ ​「麻雀放浪記」​​​直木賞作家阿佐田哲也​​という方が通りがいいのかもしれませんが、ぼくにとっては​「百」、「狂人日記」​色川武大です。彼はこの作品で​​読売文学賞​​を受賞しますが、受賞を知らないまま心臓破裂で世を去ったそうです。60歳の生涯だったそうです。​
 作品は​「自分」​と自称する​「元飾り職人」​​「狂気」​​​「正気」​​の間を行き来する日々の暮らし、「目」に見える外側の世界と内側の世界を描いた一人称の小説です。
 主人公は病院で暮らしているのですが、彼が生きているのは、まあ、こんな世界です。
​​「一番怖いものは、何ですか」
と医者が上機嫌でいう。
自分が黙っているので、さらにうちとけた調子で、
「誰にもあるでしょう、怖いものが。蛇とか、蛙とか、虫とか」
「そういうことなら、べつにないようですねえ―」自分はにべもなくいった。「ただ、怖くなりだすと、なんでも怖いです。」​​
​​如何に生くべきか。そいうことを考える年齢では早くもなくなった。もう五十を越した、一生は短きもの也。このまま転げるように生き終えてしまいたいものだ。​
​​​一人では、やっぱり生きていかれない。他者が居ない分だけ、幻像が繁殖してくる。自分の病気はここから発していると思う。他者に心を開け。簡単に思う人も居るだろうが、自分がやろうとすると、卑屈になったり、圧迫してしまったりしてしまう。そればかりでなく、どの場合も不通の個所がこつんと残る。​​
​​死んでやろうと思う。ずいぶんよそよそしい言葉で、人に告げても信じるまい。自分にも、まだ嘘くさくきこえる。
死んでやろうじゃない。死ぬよりほかに道はなしということだ。それで、自然史がよろしい。今日から、喰わぬ。​​
 引用していて、ちょっとヤバい気分になりますが、こういうのをひと様に紹介していいのかどうか、不安になりますね。
 とはいえ、この作品が​1988年​に上辞されたことに絡めていえば、戦後社会という経済成長はあれども、確たる支柱の「喪失」の中で生きることを余儀なくされた「個人」を描いて、「自我」を描き続けてきたといわれる「近代文学」と、「社会的人間」を描こうとした「戦後文学」の終焉を鮮やかに描き切った傑作だというのが、ぼくの思い込みです。
​ 「平成」「令和」の文学が、色川武大の荒涼とした​​
​​「崩壊」の世界​​
​ ​を、どう受け止めているのか、興味深いのですが、どうも、だれも論じないまま忘れられて行く雰囲気ですね。​
​ なんだか、老人の繰り言になりましたが、YAMAMOTOさん、お次をよろしくお願いします。T・SIMAKUA・2021・06・07​​​​​​​​​​​​​​​​​
​追記2024・05・11​
​​ 投稿記事を ​​​100days 100bookcovers Challenge備忘録 ​(1日目~10日目)​​ (11日目~20日目) ​​​(21日目~30日目)​ ​​​(31日目~40日目) (41日目~50日目)​​(51日目~60日目)​​​​(61日目~70日目)​​​(71日目~80日目)​​​​(81日目~90日目)​​というかたちまとめています。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと備忘録が開きます。​​


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最終更新日  2024.05.11 21:16:42
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