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カテゴリ:読書案内「社会・歴史・哲学・思想」
中村明珍「ダンス・イン・ザ・ファーム」(ミシマ社)
珍しいことに、4月のマンガ便に字ばかりの本が入っていました。中村明珍という人の「ダンス・イン・ザ・ファーム」というミシマ社の本です。ミシマ社が本にしている人というのは、まあ、内田樹とかいしいしんじとか、有名な方もいらっしゃいますが「知らんわ、この人。」という人が多いという印象ですが、もちろん、この人も知らない人でした。 まあ、小説とかの場合は大手の出版社の出している人で、最近、全く知らない作家とかは当たり前なのですが、この本屋さんの場合は、評論とか、エッセイとかのジャンルがメインなのだと思いますが、内田樹がいうところの、街場の「知らん人」と出会って「ええ、そうなんか。この人結構おもろいやん。」という確率が高い、そういう本屋さんだという印象ですね。 で、今回も全く知らない人でした。 僕は、いろいろあって二〇一三年春に東京・杉並からここに移り住んだ、現在四十代を生きる人間の一人。決断して、実際に引っ越したのは三十四歳のころ。当時は、妻と三歳児の三人家族だったけど、島に来て一人増えた。(P4) ちなみに、ここで「ここ」と著者がいっているのは周防大島ですね。瀬戸内海の左端の島で、本州とは全長1キロの橋によってつながっている島です。山口県大島郡周防大島町というのが正式の地名で、四国の松山の対岸の島でもあります。 この地でこの八年間、農業、イベントやオンラインショップの運営、ジャムの店やほかの農家さんのお手伝い、僧侶のお勤めなどをしてきている。 要するに、東京から瀬戸内海の東の端の島に農業移住してきた青年と、その家族の田舎暮らしの現場報告というのが、とりあえず読んでみませんかのベースにあるようです。 で、読み始めて「この中村明珍って何者よ?」、「寺の跡取りでもないのに、仕事が僧侶って何よ?」と、シマクマ君は、そういうところに引っ掛かるのですが、著者紹介にある通り、書き手は銀杏ボーイズという、たぶん、かなりメジャーなロック・バンドの「ちん中村」という芸名のギタリスト、バンドマンだった(?)人だそうですね。その、東京で生まれて暮らしていたバンド・マンが、東北の大きな地震の後、「田舎」を思い浮かべたところから、「ダンス・イン・ザ・ファーム」の夢が始まってしまって、バンドから抜け出して農業研修に通ったり、お坊さんの修行で善通寺に入ったり、まあ「悪戦苦闘(?)」の出発から、2020年の「今」に至るまでのプロセスというか、生活の実景というかを、中村明珍という、まあ、やっぱり、あんまり普通じゃない名前になって、 問い「あなたのほんぎょうって、いったいなに?」 っていうふうに、実は「いかがわしい」ですけど、いかがわしいまんま「本」なんかに書いちゃったということようなのです。 本人も「あとがき」でおっしゃっていますが、実は「ファーム」の話はほとんどありません。どっちかというと「カントリー・ライフ」と「マイ・セルフ」の話が中心でした。 でも、面白い。住んでいるところがところだけに、勃発する出来事が意表をついているうえに、書いている明珍さん、「わっかったふう」には書かない、イヤ書けない、「きっと道半ば」のポジション取りが彼の書き方に現れていて、素直に現実と出会って、正直に苦悩してる姿が、まあ、シマクマ君のような老人を、ちょっと感無量な気分にしてくれます。 ミシマ社さん、また一人、なかなかな書き手を見つけましたね(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.05.08 09:47:57
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