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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2022.10.12
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​​​坪内稔典「季語集」(岩波新書)​​
時候
暮秋
 秋の末を季語では「暮れの秋」「暮秋」「秋暮れる」などという。
 夏目漱石は「病妻の閨(ねや)に灯(ひ)ともし暮るる秋」という句を作っている。 「病妻」は病気の妻、「閨」は寝室である。漱石の妻(鏡子)はときどきヒステリーを発し、体が海老のように硬直した。そういうとき、漱石は茶碗の底をぶっ倒れている妻のみぞおちに押し当てた。そしていると次第に体がほぐれてくるのだった。
 一方、夫の漱石は周期的に神経衰弱になり、たとえば夜中に手当たり次第に物を投げて暴れた。また、突然に妻に離縁を迫ったりした。
 要するに、夏目家の暮秋はすさまじかった。「病癒えず蹲る夜の野分かな」。これは漱石の自画像か、それとも妻のようすであろうか。

 髭風ヲ吹て暮秋歎ズルハ誰ガ子ゾ 松尾芭蕉
 能すみし面の衰え暮れの秋 高浜虚子(P173)
 坪内稔典という俳人の​「季語集」(岩波新書)​という、歳時記、エッセイ集、いや、季語集を読んでいます。日々欠かすことのできない「某所」での読書にぴったりです。
 1ページ400字、俳句で言う、季語が必ず一つ、最後にその季語の句が2句、江戸以前の古典句と近代以降の現代句が一句ずつ添えられています。マア、季語によっては現代句ばかりの場合もあります。1ページ読み終えるのに、10分も座らなくても大丈夫です。​

​ 全部で、300余りの季語について、400字のエッセイという短さには訳があります。「季語を楽しむ」という前書きの中で作者自身がこう説明しています。​​​​​
 この本は毎日新聞1991年12月より連載した「新季語拾遺」「稔典版今様歳時記」がもとになっており、後者は現在も連載が続いている。その連載は1回分400字であり、その字数でいかに書くかに私は苦心した。(P7)
​ という訳で、この前書きの文章が書かれたのは、この本が出版された2006年らしいのですが、15年以上続いた人気コラムの書籍化というわけです。新聞に載っていたのが30年前、出版されたのが16年前、今となっては古本屋さんで250円でした。​​​
​ 取り立てて「俳句」に興味があるわけではありません。250円の某所の友です。で、ちょうど、週に一度お出会いしている女子大生のみなさんに​
「『こころ』の授業をやるなら漱石に興味を持ってくださいね!」
​と呼びかけていることを思い出しての「読書案内」という次第です。​
​病癒えず蹲(うずくま)る夜の野分かな​
 ぼくも、はじめて知った句ですが、ぼくには妻の姿を見ている漱石が思い浮かびます。それにしても、何とも、漱石ですね。
​ 坪内稔典​という俳人漱石の親友正岡子規の研究者(?)として知られていると思いますが、この句を持ち出して漱石夫婦の長い秋の夜を400字、絵でいえば一筆書きで描いて見せているのは、さすがの手練れぶりです。新聞連載を10数年も続けられたわけです。​
​ マア、どこからで、20歳の女学生さんたちが、夏目漱石に興味を持ってくれるきっかけになれ、それに越したことはありませんという案内でした。もちろん、「漱石俳句集」岩波文庫に、今もありますよ。マア、古本屋をお探しになれば、ただ同然かもしれませんが(笑)


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最終更新日  2022.10.12 00:19:53
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