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カテゴリ:映画 香港・中国・台湾の監督
ジュン・リー「香港の流れ者たち」元町映画館 元町映画館で「香港映画祭」という特集プログラムをやっていました。チラシを見たときに、「これは!」と思ったのは民主化をテーマにしたドキュメンタリーの短編群でしたが、特集上映の期間が1週間と短く、狙った作品は見落としました。
で、何とかあてずっぽうでこの日に見たのはジュン・リーという監督の「香港の流れ者たち」という、香港のホームレスの人たちを描いたドラマでした。 あまり期待しないで見たのですが、見甲斐のある作品でした。原題は「濁水漂流」、英題が「Drifting」だそうです。邦題は、ちょっとピンボケの印象でした。 路上で暮らしているのは刑務所を出たばかりらしいファイ、ベトナム難民のラム爺、皿洗いのチャンと半身不随のランのという女性コンビ、ヘロイン中毒のダイセン、どこから来たのか、言語障害でハーモニカを吹く少年モクといった面々です。 刑務所帰りのファイが、久しぶりにヘロインに浸るシーンに重ねるように、町の美観を維持するという「公共の目的」にそって行われているのでしょう。「掃除」と称してテントや段ボールの住居が撤去され、持ち物は「ゴミ」として収集車に積み込まれ、ホームレスの人たちが、問答無用で、今日まで暮らしていた場所から排除されていくシーンが映し出されて映画は始まりました。 高速道路の陸橋の下という新しい場所を見つけて、新しい住居の建設とか、まあ、あれこれあるのですが、やがて、彼らを支援する、若くて健気な、女性ソーシャル・ワーカー、ホーの助言と協力で、所有物の返還と謝罪を求めて政府を相手にした訴訟の戦いが始まります。 一方で、ホーの努力で、行方のわからなかった息子と音信を取り戻したラム爺が喜びにあふれた笑顔を取り戻した翌日自ら命を絶つという事件が描かれ、家族のもとに保護された少年モクが高級住宅の一室に黙って座っている姿が描かれます。チャンとラムの女性コンビは公営住宅に入居することができようです。そんな中、裁判闘争は、政府に賠償金の支払いを命じるという勝利判決を勝ち取るのですが、しかし、あくまで「謝罪」を要求するファイには納得できません。で、善意の人であるホーには、ファイのこだわりが理解できません。彼女の、あくまでも、善意の努力がファイが暮らしてきた仲間との暮らしを破壊していきます。それは「掃除」という名で生きている人間を害虫を駆除していくかのように扱う権力のやり方とは別のかたちなのですが、ホームレスという現実を改善しようとすれば、そこにあった暮らしや人のつながりは破壊せざるを得ないわけです。 ホームレスであるということ以前に、たとえ、住む家を失った暮らしをしていても譲れないことがあるということが、あるいは、なぜ、ラム爺が自ら命を絶ったのかが、健気なホーに理解できたのかどうか、そこが、この映画の肝だったと、ぼくは思いました。 「私は、仕事の義務でこうやってみんなの支援をしているんじゃないよ。」 あくまでも「謝罪」を要求するファイに向かって、思わずホーが口にする言葉と、それに対して静かに答えたファイの言葉です。 ラストシーンで、燃え上がるファイの小屋の炎を見ながら、モクが吹くグリーン・スリーブスのハーモニカのメロディーにのって、この言葉が聞こえてくるような気がした映画でした。 直接、民主化運動の現実をテーマにしている映画ではありません。しかし、さすがですね。厳しい現実の中で培われたに違いないでしょう。人間存在の根本を問いかけてくる思想の深さを実感する作品でした。見た甲斐がありましたね(笑) 監督 ジュン・リー(李駿碩) キャスト フランシス・ン ツェー・クワンホウ ロレッタ・リー 2021年製作・112分・香港 原題「濁水漂流」「Drifting」 2022・12・13-no136・元町映画館no151 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.19 17:00:57
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