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三宅唱「ケイコ 目を澄ませて」シネリーブル神戸 「耳を澄ます」といういい方はありますが、「目を澄ます」といういい方はありません。そのあたりが気になってやってきたシネリーブル・神戸です。
観たのは三宅唱監督の「ケイコ目を澄ませて」でした。三宅唱という監督は、佐藤泰志の原作を映画化した「きみの鳥はうたえる」を観たことがあります。名前はかわいい(?)のですが、写真で見ると結構いかつい人だったことに好感を持った記憶があります。マア、映画とは関係ありませんね(笑)。 ぼくは最近の日本映画をあまり観ないのですが、この人の作品なら見ようかなと、名前を憶えている数少ない監督の一人だということもあって観に来ました。 耳が聞こえない少女ケイコ(岸井ゆきの)がボクシングに打ち込んでいて、彼女が信頼しているジムの会長が、この映画の中でたった一人だけ知っている俳優だった三浦友和でした。彼の、老いの演技に、「ああ、いい役者になったなあ。」と納得しましたが、彼がいなければ、この映画をぼくはドキュメンタリーだと思って見終えていたような気がしました。もちろん随所にドラマ的展開は仕込まれているのですが、ドキュメンタリーのリアルをぼくに感じさせたのは口がきけないケイコの演技でした。 「わかった」とか「はい」とかいう片言であれば発声できるらしいケイコという役柄を、岸井ゆきのという女優さんが無言で演じながら、ボクサーの修練を積む女性の深い内面をいかに演じているか、もう、見ていただくよりほかありません。 思わせぶりなアップも、意味ありげなセリフ回しも一切ない映像のシンプルさが、これほど爽やかな映画をぼくは知りません。 映画の終盤、様々な鬱屈を抱えながら試合を戦うケイコが、ついに、唸るように吠え、吠えた瞬間にカウンター・パンチを喰らうシーンがあります。 これが、泣かずにいられようかという、決定的瞬間でしたが、このシーンを撮った三宅唱に拍手!でした。 「ケイコ、目を澄ませて!」 そのセリフが、三浦友和の口から発せられるのではないかと、勝手に期待して観ていましたが、とうとう、その言葉はありませんでした。マア、考えてみれば、映画の最初から最後まで、その言葉を唱えながらケイコに肩入れしていたのはぼく自身だったわけで、昂る気持ちのせいで、一瞬、視界が濁ってしまった瞬間のカウンター・パンチに、痛い目にあったのは、観ていたぼく自身だったのかもしれませんね(笑)。いい年をして困ったものです(笑)。 帰り道、脇道の路地を歩きながら、誰もまわりにいないことを見計らってシャドー・ボクシングの真似をしてみましたが、いくら腕を突き出してみても「シュッ!」という音はしませんでした。ぼくは、日本語字幕付きの上映でこの映画を観ましたが、ボクサーの突き出すパンチには、字幕にはない「シュッ!」という音がしていたと思いますが、ホントは、そんな音しないんでしょうね。もし、したとしても、ケイコには聞こえないんだというようなことを考えながら「目を澄ます」という言葉を噛みしめました。 上の写真はパンチを喰らった翌朝の顔ですが、目を澄まし続けていたからでしょうか、ずっと怒っている(ように、ぼくには見えた)ケイコをまっすぐに演じた岸井ゆきのに拍手!でした。 監督 三宅唱 原案 小笠原恵子 脚本 三宅唱 酒井雅秋 撮影 月永雄太 キャスト 岸井ゆきの(小河ケイコ・ボクサー) 三浦誠己(林誠・ジムのコーチ) 松浦慎一郎(松本進太郎・ジムのコーチ) 佐藤緋美(小河聖司・弟) 中島ひろ子(小河喜代実・母) 仙道敦子(会長の妻) 三浦友和(ジムの会長) 2022年・99分・G・日本 2023・01・18-no007・シネリーブル神戸no171 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.07.31 22:34:04
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