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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
松田青子「英子の森」(河出書房新社・河出文庫)
「スタッキング可能」(河出文庫)で登場したのが10年前です。当時、若い本読みの方からすすめられて読みました。その後「あばちゃんたちのいるところ」(中公文庫)という作品が英訳されて短編部門ですが世界幻想文学大賞を受賞したのが2021年でした。今回、案内する「英子の森」(河出文庫)は2014年ですから、「スタッキング可能」の直後の作品です。 元は、女優さんだったそうです。松田青子というペンネームはまつだせいこと読む人がいるの狙ったそうです。なんか、笑ってしまいました。高崎夫人は、自分で低脂肪乳を買ってくるといった。 これが書き出しです。もう少し読めば、もっとはっきりしますが、ここまで読んで「小花柄」があやしいと気付いた方は、なかなか鋭い「読み手」だと思います。ぼくは読み終えて、次の掌編にとりかかったあたりで気付きました。 とりあえずこれが本書の目次です。6作所収されています。 英子の森 で、先ほど触れた「*写真はイメージです」という掌編の書き出しがこんな感じです。 写真はイメージです。この写真はイメージです。青い空はイメージです。白い雲はイメージです。青い空の、ほら、ここ、誰かが手を離して飛んでいった赤い風船はイメージです。晴天でした。昨晩の天気予報を裏切っていい天気でした。気持ちのいい風に葉がさわさわ音をたてて揺れる木々にとまった鳥たちはイメージです。(P85) まあ、予想はつくだろうと思いますが、「~はイメージです。」が延々と4ページにわたって続いて、 「この写真を見ているあなたはイメージです」 にたどり着きます。で、ラストはこんな感じです。 このページはイメージです。ページに印刷された小さな文字はイメージです。文字の羅列はイメージです。あなたが読んでいるはしからすぐにイメージです。ええ、そうあなた、あなたです。さっきの物語上のあなたではなく、今度は本当にあなたです。あなたが読んだここまで全部イメージです。いいんです。別にたいしたことを言ってません。すぐに忘れて構いません。文字の連なりはイメージです。言葉の連鎖はイメージです。小説はイメージです。あなたが今読んでいる小説はイメージです。(P89) いかがでしょうか。本作をお読みになっていない方に、いかがでしょうかというのも何ですが、「英子の森」の注釈といっていいような掌編ですね。 トートロジーというのでしょうか、あるいは「イメージ」という、かなり主観を意識させる用語が、「私はウソつきです」的な自己言及の落とし穴をつくっていて、堂々巡りなのですが、ぼくは、 「ええ、そうあなた、あなたです。さっきの物語上のあなたではなく、今度は本当にあなたです。」という、言い回しで、なんだか白けましたね。「イメージであるあなた」ではなくて、「本当のあなた」がいたのでは、ここまで、何をいってきたのかわからないじゃないかといいたくなりますね。 演劇をやっていた方の小説、まあ、少ししか知りませんが、古くは阿部公房とか井上ひさしが思い浮かびますが、この手の言葉遊びがお好きな気がしますね。舞台には必ず生身の俳優がいますからね、この手のセリフが飛び交うのは笑えるわけですが、文章だけで出てくると、あざとい気がしますね。 こうした言い回しにおいて、書き手だけはイメージから自由だということはありえないわけで、そこのところの「自己隔離」というかはどうなっているのでしょうね。 認識はすべて、松田青子のいうイメージだとして、その認識の場にいる「存在」はどうなるのでしょうね。で、その「存在」の当人が「書く」とすれば、何をどう書くのか、そのあたりについて、ちょっと伺いたい読後感でしたね。まあ、その作品が、たとえば「英子の森」とかなのでしょうから、読んで分かればいいのでしょうが、それぞれの作品でも、彼女は 小説はイメージです。ということを書いていらっしゃるだけのような気がするのですね。まあ、そう読んで下さいねというわけです。ところが、読んでいるこちらは、書いている当人は「書く」という行為もイメージだとお考えなのかどうか、そのあたりが気にかかってしまうのですね。 そんなふうに、くだくだ考えさせる作品なのですが、くだくだしていると、そもそも、イメージって、何ですかね。とまあ、読んでる方も堂々巡りで、元に戻ってしまいましたね(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.09.27 10:13:49
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