ウベルト・パゾリーニ「いつか君にもわかること」 封切で見損ねて、うーんと思っているとパルシネマが2本立てで並べてくれて、まあ、一日に2本見るのがしんどい歳ではあるのですが、「生きる」と、予告編から気になっていた本作、ウベルト・パゾリーニ監督の「いつか君にもわかること」なら仕方がないですね。
で、見終えて思いました。二本とも「父子もの」でしたね。「生きる」を「父子もの」と感じるのは、ボクの年齢のなせる業だと思いますが、こちらはどなたがご覧になっても、純然たる「父子もの」でした。
余命を宣告された30代半ばの父親がまだ幼い息子をこの世に一人残すとなったらどうするのかというお話です。
母親は存命ですが、出産後、夫と子供を置いてロシアだったかに帰ってしまっていて、乳児のときから父親が一人で子育てをしてきた、文字通りシングル・ファーザーです。お仕事は、窓とかの清掃作業で、個人事業で請け負っているようです。名前はジョンです。
子どもは4歳で、名前はマイケルです。まあ、チラシを見ていただくだけでもおわかりいただけると思うのですが、なんというか、とてつもなくカワイイ!
まあ、それだけで、泣けてしまいますが、映画は、パパがいなくなった後の、みなしごになってしまう、幼いマイケルの養子先をさがすというのが本筋でした。
市の福祉センターのソーシャル・ワーカーの人たちと父子の関係や、候補として登場する養子縁組を希望する人たちと父子の出会いのシーンが現代社会の姿を映し出すエピソードとして描かれています。
ジョンの34歳の誕生日に35本目のろうそくをマイケルが渡すところとか、ソーシャル・ワーカーのショーナという女性の献身的な仕事ぶりとか、いよいよ「死」についてマイケルに語り掛けるジョンの姿とか、印象的なシーンは山盛りです。いつもなら、涙もろい徘徊老人はハンカチぐちょぐちょのはずですが、泣きませんでした。(まあ、ホントはこぼれましたけど(笑))
というのは、徘徊老人が気をとられたのが清掃作業員の父親ジョンが、毎日出かける仕事場のシーンだったからです。
ジョンが梯子を上り、建物の外壁の汚れた窓を洗剤で洗います。モップでその泡を吹きとると透き通ったガラス窓の向こうに、それぞれの建物の室内が映るシーンが繰り返し映るのです。いろんな室内があります。で、泡をモップがぬぐうと、その内部が見えてきますが、ジョンと室内は、当然ですが、見事に透き通ったガラスで遮られています。このシーンが、なぜ、印象に残ったのかはよくわかりません。しかし、美しく透き通ったガラスにさえぎられた「二つの世界」を、毎日作り出すことを仕事にしながら生きてきたこの男が、本当のところ、ガラスの向こうの側の世界に幼い息子を住まわせたいと心配しているとは思えなかったのです。
35歳を迎えられなかったこの男のプライドは、透き通ったガラスの外で輝いていて、それを伝えきれない「父」としての姿が丁寧に描かれている作品だと思いました。で、それは、胸を打つのですが、涙することではないというのがボクの実感でした。 なにはともあれ、マイケルとジョンの父子に拍手!本気で仕事をしていたショーナとマイケルを引き取ってくれた独身の女性に拍手!でした。
監督 ウベルト・パゾリー
脚本 ウベルト・パゾリーニ
撮影 マリウス・パンドゥル
美術 パトリック・クレイトン
衣装 マギー・ドネリー
編集 マサヒロ・ヒラクボ サスカ・シンプソン
音楽 アンドリュー・サイモン・マカリスター
キャスト
ジェームズ・ノートン(ジョン)
ダニエル・ラモント(マイケル)
アイリーン・オイヒギンス(ショーナ)
2020年・95分・G・イタリア・ルーマニア・イギリス合作
原題「Nowhere Special」
2023・07・03・no82・パルシネマno60