グザビエ・ジャノリ「幻滅」
この日はパルシネマで二本立てです。見たのはグザビエ・ジャノリという監督の「幻滅」です。一月ほど前にシネリーブルでやっていて、ちょっと気になっていましたが、なんとなくパスした一本です。
まあ、バルザックって苦手なんですね。冗長というか、作品によるのですが、ダルくなって読み続けられないんですね。原作の「幻滅」は20年ほど前に藤原書店が出した「バルザック・セレクション」で、鹿島茂とかの新訳の1冊、まあ、上・下本ですが、で出ていて、チャレンジした記憶はありますが、内容は全く覚えていません。
さて、映画です。原作がバルザックですから、まあ、映画も人間喜劇ということですね。始まった物語の舞台ですが、時代は19世紀の前半、日本だと江戸時代の末期、フランスなので、まあ、思いっきり大雑把に言えばナポレオンのあとですね。ようするに「近代社会」、「国民国家」の始まりの時代というわけです。
田舎町の印刷工の青年が、年老いた夫との満たされない生活をしている貴族の女性と禁断の恋に落ちます。
一応、時代劇なわけで、映し出される衣装とかの生活風俗、印刷技術なんか、結構面白いですね。平民の文学青年が「詩」を献上して貴族の女性と恋に落ちるなんていうのも、時代劇ならではなのでしょうね。
で、バルザックですからね、駆け落ちして、舞台がパリに移ります。二人が迷い込む世界は「貴族のサロン」、「劇場」、「新聞社」です。で、その三つの世界が「新聞」が報道する「記事」をめぐって、まあ、今風に言えばどんなふうに「炎上」するのかという展開で、「サロン」=旧来の政治権力、「劇場」=金権社会、「新聞記事」=フェイク情報と読み替えれば、映画は、そのままリアル現代劇の様相です。
「新聞」という新しいメディアをネタに小説を書いたバルザックが、旧来の価値観の底が抜けた新たな社会の到来のインチキを見破る慧眼の持ち主であったことに異論はありません。そこから現代という時代を批評的に描こうという、この映画のグザビエ・ジャノリ監督の意図のようなものも納得です。
ただ、なんとなく見ながら浮かんできたんです。
現在の眼から見れば、あの頃からの繰り返しの連続で、そこで失われたのが「純愛」とか「文学」とかだったと言われてもなあ・・・・。
時代という意味では、とても面白い舞台で、描かれている社会相は文学史のみならず、近代社会の成立ということを振り返る上でも興味深かった作品ですが、物語としては、まあ、そんな感想でしたね(笑)。 で、インチキ・ジャーナリズムの親玉役で、この日見た、もう1本で主役のメグレをやっているジェラール・ドパルデューが、打って変わって暑苦しい金の亡者のような役を好演していたのですが、メグレを見ながら、同じ俳優だとは気づきませんでしたね(笑)
監督 グザビエ・ジャノリ
原作 オノレ・ド・バルザック
脚本 グザビエ・ジャノリ ジャック・フィエスキ
撮影 クリストフ・ボーカルヌ
美術 リトン・デュピール=クレモン
衣装 ピエール=ジャン・ラロック
編集 シリル・ナカシュ
キャスト
バンジャマン・ボワザン(リュシアン・ド・リュバンプレ)
セシル・ドゥ・フランス(ルイーズ・ド・バルジュトン)
バンサン・ラコスト(エティエンヌ・ルストー)
グザビエ・ドラン(ナタン)
サロメ・ドゥワルス(コラリー)
ジャンヌ・バリバール(デスパール侯爵夫人)
ジェラール・ドパルデュー(ドリア)
アンドレ・マルコン(デュ・シャトレ男爵)
2021年・149分・R15+・フランス
原題「Illusions perdues」
2023・07・26・no95・パルシネマno61