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カテゴリ:読書案内「社会・歴史・哲学・思想」
マイケル・ベリー「『武漢日記』が消された日」(河出書房新社) 方方(ファンファン)という中国の女性作家の「武漢日記」(河出書房新社)というルポルタージュの感想を2023年の1月に「読書案内」しました。
コロナの始まりの都市、武漢に暮らす作家方方の、コロナ騒動体験記です。コロナの蔓延と都市封鎖に至る市民の日常が報告され、公的な対策の不備が綴られている日記ですが、日常生活の心配事や不如意がネットに投稿された結果、記事の内容をめぐって、とんでもないとしか言いようのない「弾圧」、「ヘイト」騒動が勃発したことのルポになってしまったことによって、現代社会の実相を描き出してしまったオンライン日記でした。で、その本を読んだついでに読んだのが、今日の案内本、マイケル・ベリー「『武漢日記』が消された日」(竹田純子訳・河出書房新社)でした。 2020年に河出書房新社から翻訳出版された「武漢日記」の日本語訳者は飯塚容と渡辺新一というお二人ですが、最初に、このオンライン日記に注目し、英語への翻訳を打診し、実行したのがマイケル・ベリーというUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の中国文化研究者でした。 彼は、方方の「柩のない埋葬」(河出書房新社)という作品の英訳者で、2020年当時、その仕事に従事していたようで、当然、方方のオンライン日記の重要性にいち早く気付き、オンライン上での英訳を申し出るわけです。2020年、2月16日のことです。その申し出に対する方方の答はこうだったそうです。 「コロナウィルスの感染はまだ進行中で、私の日記もまだ続いています。今のところ、これを出版する計画もありません。できれば、この流行が落ち着くまで待ってもらえませんか」 で、ここから1週間の間に、たった1週間ですが、世界中のメディアが方方の日記に気づき始め、騒ぎになり始めたようです。2月24日、マイケル・ベリーによる英訳掲載が始まります。 コロナの世界への蔓延のスピードと、英訳作業の開始のあわただしさ、英訳された「武漢日記」が「事件」へと変化していく速度が、ピタリと重なっている印象です。その結果、方方という作家の名前は世界的な有名人として拡散していったわけです。 日記が大きく取り上げられ、方方が、中国語圏からやがて世界中でその名が知られる本物の有名人になると、暗黒の力もまた、彼女の周囲姿を現し始めた。日記は政治マンガにネタになり、中国で公知と呼ばれる知識人の間に白熱した議論を引き起こし、日記をディスるラップソングまで作られた。そしてネットメディアへの大量の書き込みにより、日記に対するネガティヴキャンペーンが延々と繰り広げられたのだ。 攻撃が増えるにつれ、自分の仕事がいろいろな政治勢力にどのように利用されるかが気になり始めた。 本書の書き出しあたりで、マイケル・ベリーが、本書の成立するいきさつをのべているところからの引用です。たとえば、ボクは、すでに忘れてしまっているのですが、これは2020年の2月のことです。 一人の女性作家が生活の日記をネット上に書き、それを評価したアメリカの学者が英訳した。その結果、インターネット社会の裏表があからさまに姿を見せ始めます。「コロナをめぐる言説」であったことが拍車をかけて、情報発信者の人格や人権など歯牙にもかけない社会が現前します。 この本は、その顛末を丁寧に描いています。蕭々腹を立てていらっしゃるようですが、冷静です。 読めば読むほど疲れます(笑)。 現実の愚かしさのストレートな報告ですが、上にもあるように、「反中国」のヘイト文書ではありません。そこが、この報告を読み続けることができる理由です。もちろん、ほかにも面白いところはたくさんありますが、大切な一つのポイントだと思います。 とりあえず目次をあげておきますが、手に取ってお読みいただくのがいいんじゃないかと思います。 きっと、あなたもお疲れになるにちがいないと思います(笑)。 ボクたちは、たぶん、とんでもない世界に生きて始めているんだというのが、率直な感想でした。 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.09.08 08:53:41
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