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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
深緑野分「ベルリンは晴れているか」(ちくま文庫)
深緑野分という、ぼくには新しい人の「ベルリンは晴れているか」(ちくま文庫)を読みました。2019年の本屋大賞第三位ですね。ツィッター文学賞とかいうのがあるらしいですが、それは一位ですし、直木賞の候補にもなっているようです。ようするに、巷の評判がすこぶるいい作品です。 読み終わって、ちょっとがっかりしました。ミステリーなのか、歴史小説なのか、あるいは、1945年のベルリンという都市小説なのか。どれも及第点とは言えなかったですね。 歴史や地理的事実について、とてもよく調べて書かれているようなのですが、細部に対するこだわりと、全体といいましょうか、釣り合いがとれていないんですね。ぼくにはベルリンの町が、全くリアルではなかったですね。もちろん行ったことも見たこともないわけですが、少なくとも、今読んでいる事件の現場としての立体感が描写できていないという印象ですね。どこで、何が起こっているのかわからないということですね。 たとえば、森鴎外に高校の教科書にも出てくる「舞姫」という有名な作品がありますが、主人公の太田豊太郎が彷徨うのが、ベルリンの裏町であると実感させてくれる何気ない地名の挿入や描写を思い浮かべながら、何が違うのか考えましたが、おそらく、書き手にとってのベルリンが具体的に想起されているか、いないか、というあたりに描写のイメージの差が出ているのでしょうね。ようするに、調べて書いている場所だということかもしれません。 ミステリーとしては謎解きの安易さがまず、どうしようもないという感じです。 ここまで引っ張ってこれですか?まあ、そういう感じでした。これで、直木賞はあり得ないでしょう。 しつこいようですが、「パリは燃えているか」という、たしかヒトラーの有名なセリフのモジリとして、「ベルリン陥落」の日を題名化したようですが、これも空振りでしたね。ヒトラーの言葉に宿っている歴史的アイロニーのかけらすら感られませんでした。 なんで、こんな題になったの?そう考えたときに、客を呼ぶためのシャレたイメージを求める編集者の存在とかが浮かんでしまうのが率直な感想でした。 今回、新刊本を購入しましたが、腰巻のにぎにぎしさに加えて、大手の書店では平積みの棚に、積み上げられていました。図書館では数十人待ちです。なぜ、この小説がそんなに売れて、好評なのかポカンとしますが、やっぱり本屋大賞がらみなんでしょうか。 作品の良し悪しの判定はむずかしい問題ですが、本屋大賞の始まりにかかわった「本の雑誌」で書いていた目黒孝二、別名、北上次郎あたりの方がどうおっしゃるのか、ちょっと興味がありますが、とかなんとか思っていると「本の雑誌の目黒孝二・北上次郎・藤代三郎」(本の雑誌社)という、目黒孝二追悼特集本に偶然出合って、思わず、ため息をつきました。時は流れているのですね。 出版不況、本が売れない、そういう現場からアイデアが出て、本屋さんが「こんな本売りたい!」と差し出す本いうコンセプトから生まれた本屋大賞が空疎な「市場原理主義」を文学とかに持ち込んだとしたら、「本の雑誌」を愛していたぼくとしては、ちょっと寂しい、そんな感じですね。 なんか、話題がよれてしまいましたが おもしろい! を疑う時代がやってきているのではないでしょうか。そんな思いが頻りに浮かぶ今日この頃ですね(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.11.29 10:15:43
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