小島渉「カブトムシの謎をとく」(ちくまプリマ―新書) 市民図書館の新書の新刊の棚で見つけました。2023年の8月に出た本です。「カブトムシの謎をとく」小島渉という背表紙に目がとまって、手に取って表紙を眺めて、裏表紙裏の著者略歴を見ると、1985年生まれ、東大の大学院を出た博士さんで、山口大学の先生のようです。38歳のようです。わが家の愉快な仲間の誰かと同じくらいの年恰好で、まあ、それにしてもカブトムシです(笑)。
60年ほど昔、小学校3年生の時にファーブル昆虫記に夢中になったことが浮かんできました。覚えているのはセミとフンコロガシ(カナブン)の話です。もう一度パラパラやって借りてきました。
下に貼った目次をご覧になればわかりますが、第1章はカブトムシ研究者への道と題されていて、自己紹介です。かなりディープな昆虫少年だったようですが、この1節にウーンとなりました。
水生昆虫を探しに行くと、ヘビにもよく出会いました。よく目にしたのはシマヘビとヤマカガシです。そのうちヘビの美しさに魅了され、見るたびに捕獲し、写真として記録するようになりました。カエルもお気に入りの動物の一つでした。普段見かけるのはトノサマガエル、ヌマガエルやアマガエルなどの普通種でしたが、一度だけ大きなヒキガエルを捕まえたのをよく覚えています。(関東の人には信じられないかもしれませんが、奈良県の平野部ではヒキガエルはなかなか見られません)。ヒキガエルを捕まえたら確かめたいことが一つありました。それは、耳腺と呼ばれる目の上のふくらみから分泌される毒液の味です。耳腺を圧迫すると、図鑑に書いてある通り、乳白色の毒液がにじみ、少し舐めてみると強烈な苦みを感じ、天敵への防御効果を身をもって理解できました。私が幼少時に行った思い出深い“実験”の一つです。(P18)
おいおい・・・ですね(笑)。だいたい、ヘビが美しいとかいう感覚についていけませんが、
ヒキガエルの毒液を舐めるって、きみ!
という感じです。イヤー、困った中学生ですね。
まっ、そういうわけで、すっかり引き込まれて、久しぶりの昆虫記体験でした。語り口はご覧のとおりで、まあ、理系の青年の作文ですが(エラそうでスミマセン)、カブトムシが何を食べていて、カブトムシを食べるのはいったい何者か(想像つきます?)ということに始まって、現代昆虫学の現場報告は、なかなか面白くて、一気読みでした。
後半ではアゲハ蝶やコガネムシの話に広がっていくのですが、高校生ぐらいを相手に
「昆虫学の世界へ!」
という優しいお誘い(?)の気持ちが充満していてなかなかうれしい本です。
とはいうものの、誘われても、今更な69歳の老人は「ものしり・うんちくネタ」に出合うたびにポスト・イットを貼るのに夢中でしたが、語る相手がいないことに、ハタと気づいて、チョット落胆の読書でした。
折角なので、この場を借りて、ちょっとだけ、付け刃のうんちくです。カブトムシの食べ物は樹液だそうで、クヌギの木がメインですが、今、関東地方に広がっているナラ枯れの原因でもあるそうです。それから、カブトムシを食べるのはカラス、タヌキ!、ハクビシン、野生のネコだそうで、角とか頭の部分は食べ残して胴体を食べるのだそうです。
老人は、ナラの木を枯らしてしまうほどのカブトムシの群れがあることにカンドーでしたが、現代社会から見える虫たちの世界と、虫たちの世界から見える現代社会の姿の両方が、相変わらず昆虫少年を続けていらっしゃる、まあ、実に奇特な学者さんの視界には広がっているようで、ただのオタク・ブックでは終わっていませんね。
お若い方々が、こんな本があることに気づいて、面白がってくれるといいなと、いや、ホント、マジに思いました。
目次
まえがき
第1章
カブトムシ研究者への道/昆虫に夢中/思い出の池/魅惑の図鑑類/鳥への情熱/進化生態学との出会い/昆虫を研究対象に/山口の自然環境
【コラム】台湾での生活
第2章
カブトムシはどんな昆虫?/カブトムシの分類/カブトムシの種数/カブトムシは本当に1種類?/カブトムシの一生/成虫の短い寿命/幼虫の餌/オスの角と大きい体/ユニークな配偶行動/カブトムシと人間との深いつながり/都会派のカブトムシ/カブトムシは希少種だった?
【コラム】ナラ枯れとカブトムシ
第3章
幼虫のくらし/幼虫の餌の質が成虫の体の大きさを決める/発酵の進んだ餌の見つけ方/卵の大きさと成虫の大きさ/幼虫が成長するしくみ/幼虫はなぜつねに最大速度で成長しないのか/幼虫はいつ蛹になるのか
【コラム】〝大きさ〟って何?
第4章
カブトムシを食べたのは誰?/散らばる死体の謎/犯人はカラス?/もう一つの天敵/カブトムシはおいしい?/食べられたのはどんな個体?/大型の個体は食べられやすい/高い捕食圧
【コラム】タヌキが捕まえたのは?
第5章
活動時間をめぐる謎/小学生による大発見/1通のメール/面白い着眼点/「自由研究」から「学術論文」へ/You are never too young to be an ecologist/なぜ昼まで居残るのか/シマトネリコでは物足りない?/さらなる調査/オオスズメバチとカブトムシ/オオスズメバチを排除する/法則はシンプルだとは限らない
【コラム】屋久島での大発見
第6章
カブトムシの生態の地域変異/遺伝か環境か/謎多きオキナワカブト/ユニークな屋久島のカブトムシ/九州のカブトムシ調査/短い角の進化史に迫る/素早く成長する北日本のカブトムシ/カブトムシの成長を記録する/成長速度を解析する/北海道の外来集団は進化しているのか/素早く成長するためのメカニズム/卵の大きさの地域変異/大きい卵を産む理由
【コラム】調査の間の楽しみ
第7章
昆虫はどのように天敵から身を守るのか/石垣島のジャコウアゲハ/恐れ知らずな有毒種/警戒心の強さ比較/場所を変えて調査/甲虫の〝硬さ〟は鳥からの防御に役立つ?/ウズラ以外にも通用するのか/食べてもらう工夫/鳥からの捕食回避/【コラム】逃避開始距離で警戒心の強さは本当に測れる?
【コラム】毒蝶は体温が低い
あとがき 引用文献