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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2023.11.02
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​​クリスティアン・ムンジウ「ヨーロッパ新世紀」元町映画館
​​ 夜の7時から始まる「裸のランチ」を見ようというのが、この日の目論見だったのですが、それまでの時間をどうつぶそうか?という時間つぶしで見たのがこの作品でしたが、あえなくノック・アウトされてしまいました(笑)。​​
​​​​ クリスティアン・ムンジウというルーマニアの監督「ヨーロッパ新世紀」という映画です。見終えてウーンと唸りながらノック・ダウン!でした。繰り出されるパンチが凄かったですね。​​​​
​​​​ 原題「R.M.N」というらしいのですが、日本では「MRI」と呼ばれている医療機器、音波だかで脳とか内臓とかの断層写真を撮る、あの機械のことですが、映画は「21世紀ヨーロッパ」の断層写真とでもいうべき構成です。​​​​
​​​​​​​​ しかし、この映画が俊逸なのは、R.M.Nというローマ字が「ルーマニア」という、EUの中では、東ヨーロッパのはずれの田舎国家の頭文字になっていて、その中でもトランシルヴァニアという、ボクなんかは吸血鬼がらみでしか知らない地域がMRIで検査されているにもかかわらず、21世紀のヨーロッパ全体の、まあ、もう少し大げさに言えば世界全体の断層写真を提示していたと感じさせるところにあったと思いました。​​​​​​​​
​​​​ 父親がドイツの食肉処理工場に出稼ぎに行っていて、と二人暮らしの少年が、学校の帰り道の山の中で「なにか」を見ておびえるシーンから映画は始まりました。​​​​​
​​​​「なににおびえたのだろう?」​​​​
​​​ 上のチラシの少年です。名前はルディ、いい顔しているでしょう。​
​​​ 場所はあのトランシルヴァニアの森のなかです。少年が見たのは吸血鬼だったのでしょうかね?​​​
​​ 映画の最後のシーンに、もう一度、画面が暗くてよくわかりませんでしたが、クマのような何かが出てきます。舞台になっているこの地域は野生のヒグマの生息数がヨーロッパでも有数の地域なのだそうです。映画の中にフランスから来た野生動物の保護活動をしている青年も出てきます。​​
​​​ ネタバレのようですが、この映画が差し出した難問は、最初と最後のシーンに
​​​​「なにが出てきたのだろう?」​​​​​
​ でした。これからご覧になる方で、ファーストシーンラストシーンに「なにが出てきたのか」おわかりになったら、教えていただきたいぐらいのものです(笑)。​​​
 ここまで、いかにも意味不明の映画のような感想を書いていますが、にもかかわらず、じつは、すごい作品だと思いました。この作品は、グローバリズムに翻弄されている現代社会の負の局面を見事に映し出していると思いました。しかし、にもかかわらず、イヤだからこそでしょうね、見終えて、ぐったりします。
​​​​ たとえば、この作品の字幕3通りに色分けされています。配給会社ではなく、映画の編集上の工夫だと思いますが、映像の中ではルーマニア語、ハンガリー語、外国語(ドイツ・フランス・英語)3通りの言葉による会話が飛び交うからです。​​​​
​​​​​​​ 舞台はヨーロッパの田舎の町ですが、もともと、複数の母語を使用する多民族地域なのです。ことばが通じ合わない、だから、おそらく、日常的習慣や宗教意識、常識も異なっている他者の寄り集まりの社会なのです。その社会に、外国語である英語を使う新しい他者が流入してきます。アジアからの移民労働者です。すると、今まで、多様だったことが当たり前だったはずの住民たちの中に、不満なのか不安なのか、判然としませんが、何かがくすぶり始めます。
 ​​​​​​​
​で、SNSという、いかにも火の廻りが早く、火の持ちのよさそうな導火線に火がつきます。人々の心の奥の​​​​火薬庫には、数え上げればきりがなさそうですが、「貧困」、「格差」、「地域主義」、「人種」、「家族制度」、「宗教意識」、(映画にはみんな出てきますよ)という不満と不安を掻き立てていたいらだちの種が山積みされています。どれに火がついても社会全体の崩壊を予感させる爆発物ですよね。
 映画のクライマックスの一つは、火がついてしまったおじさんやおばさんたちが、新しい他者に、「汚い!」「バイキン!」「帰れ!」と声に出して叫び始めるシーンを見事に描いた町民集会でした。​​​

​​ まあ、このシーンを見るだけでも、近代的な常識であるはずの「人間の平等」、「個人の尊厳」といった、本来、根源的であったはずのモラルが戯言でしかなくなりつつある現代を実感できると思います。​​
​​​​​​​​​​​​​​ グローバリズムという現代社会を象徴する概念がありますが、ようするに地域歴史を超えて重層化する資本主義の圧力辺境に向かう時、閉鎖的な社会に残存する前近代的心情の不安が燃え上がり、なりふりかまわぬ他者排斥=ヘイトが心のつながりを作り出し、貧しくはあるけれども、穏やかな田舎生活をしていたはずのおじさん、おばさん、おじいさんや、おばあさんたちに拡散していく展開は、まあ、悪夢でしたね。
 しかし、そのシーンを終わらせるのが、現実の悲劇でした。少年の祖父であり、羊飼いだった老人が森の、最初の、あのあたりの木を選んで縊死するのです。この老人の死から、映画のラストまで、ワクワク、ドキドキしっぱなしなのですが、何が起こっているのか全く分からなかったですね(笑)。多分、自分勝手に見間違えているのでしょうね。しようがありませんね。​​​​​​​​​​​​​​

​​ 結局、少年が、映画の始まりで何を見たのかに答えるシーンはありませんでしたが、少年には励ましの拍手を贈りたいですね。​​
​ 彼はきっと、自分が、これかから生きていく、すぐそこにある、近未来の世界の悪夢を見たにちがいないのですからね。まあ、見間違えでしょうけどね(笑)。​​ この夏「福田村事件」という映画が評判になりましたが、あの映画を見ながら、思わず「日本人同士なのに」とハラハラされた方には、是非、見てほしいと思いました。​​
​​​​ 近代社会がようやくのことでたどり着いたはずの、人間という概念普遍性が喪われつつある現代社会のMRI画像は、一見の価値があると思いますよ(笑)。​​​​
 まあ、しかし、疲れますし、話のディテールはよくわからないですけどね。
監督・脚本 クリスティアン・ムンジウ
撮影 トゥドル・ブラディミール・パンドゥル
編集 ミルチェア・オルテアヌ
キャスト
マリン・グリゴーレ(マティアス)
マクリーナ・バルラデアヌ(アナ)
マーク・ブレニッシ(ルディ)
ユディット・スターテ(シーラ)
オルソレヤ・モルドバン(デーネシュ夫人)
アンドレイ・フィンティ(パパ・オットー)
2022年・127分・G・ルーマニア・フランス・ベルギー合作
原題「R.M.N.」
2023・10・24・no129・元町映画館no208​​  ​​​​​​​​

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最終更新日  2023.12.11 22:53:16
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