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カテゴリ:映画「元町映画館」でお昼寝
セルゲイ・ロズニツァ「破壊の自然史 戦争と正義Ⅰ」元町映画館 元町映画館がやっているセルゲイ・ロズニツァ特集、題して「戦争と正義Ⅰ・Ⅱ」、「破壊の自然史」と「キエフ裁判」を、Ⅱ,Ⅰの順番で続けてみました。堪えましたが、今回は「破壊の自然史」の感想です。
この「破壊の自然史」は、いわゆるロズニツァ流アーカイヴァル・ドキュメンタリーの手法で作られているドキュメンタリー映画でしたが、今までに見てきた彼の作品とは、 「これは、ちょっと?」 と感じる、すこし違った手法が取り入れられていて唸りました。 ナレーションによる解説、あるいは、地名、歴史的時間を表示する字幕が、一切ないのがロズニツァ流です。彼が扱う映像は、撮影主体が誰なのか、ひょっとしたらどこかに表示されているのかもしれませんが、ボクのような観客にはわかりませんが、その時代、その事件を何者かが撮影し、「記録」として保管されてきた白黒で、おそらく無音のフィルムです。 その、音のないフィルムに映し出されている登場人物、例えば演説する人間や叫ぶ人、裁判であれば弁明する被告や木槌を打つ裁判官、ざわめく聴衆、戦争シーンであれば爆音や爆発音が、単なる効果音としてではなく、あたかも「歴史的事実」を描いていくため加えられていくというのがロズニツァの手法です。 当然ですが、そこには制作者による「映画的作為」が働いていて、表現の意図が込められているはずです。それは、ここまでに見てきた「粛清裁判」や「国葬」という作品を見ていて気付いたことでしたが、この作品では、新たに「色」が使われていました。ボクが「これは?」と思ったのはそこでした。 映画の途中から、カラー映像が使用されるのです。それだけなら気づかないのですが、冒頭のシーンで空に浮かぶ雲のシーンが出てくるのですが、後半に差し掛かったころ、そのシーンがもう一度出てきます。で、二度目には色が付いているのです。これは意図的ですね。しかし、その意図がボクには分からないのです。 この映画では第二次大戦末期の英独双方による空襲戦・空爆戦のありさまが繰り返し映し出されています。闇の中から浮かび上がるように襲われる都市の街灯りが映り、次々と落下していく爆弾の影、爆音、閃光、見ていて、何が起こっているのか分からないシーンが続き、瓦礫の山、横たえられた死体、そこを無言で通り過ぎる人々の姿、そういう悪い夢でも見ているようなシーンが重ねられていくのです。連合国による、ベルリン、ドレスデンに対する対ドイツ無差別爆撃だけではなく、ナチスによる対ロンドン空襲のシーンも出てきます。 しかし、まあ、ヨーロッパに限りませんが、明らかなランド・マークでもあれば別ですが、ヨーロッパの都市を上空からの暗い映像や、瓦礫の街並みの写真ではとても見分けられないボクには、それぞれの街が、いったいどこであるのかは、被災地を視察するのがチャーチルであったり、ナチスの将校ゲーリングであることでしかわかりません。 イギリスの将軍、たぶん、モンゴメリー元帥が爆弾工場を慰問して演説したり、なんと、あの、フルトヴェングラーが、多分、兵器工場でワグナーを指揮している、音楽付き映像があったりしますが、そういう、ボクでも知っている特徴的な人物が出てくれば、そこがどこなのかわかるのですが、映像がどんどん重ねられていくと、路上に並べられている死体がどちらの国の国民のものなのかはわかりません。その混乱のなかで、フト「破壊の自然史」という題名が浮かんできたのです。この編集の仕方にこそ、制作者、ロズニツァの意図が込められている違いありません。 そんなふうに、少し落ち着きを取り戻してみていると、カメラが廃墟の街に残った塔を映し出し、その先端に天使の像が現れるのを見てエッ?と思いました。ヴェンダースです。 「ここは、ベルリン?」 何だか、突如の訝しさのまま、実はボンヤリしながら、映像に色が付き始めたことに気づきました。別に、映されていることが平和的に変わったわけではありません。相変わらず大量生産されていく爆弾が、今度はカラーになっただけです。瓦礫の山の向うの空が青空になっただけです。 ボクは、この作品を見終えてから1週間たった今、この映画のラストシーンを思い出すことができませんが、空中を落ちていく無数の爆弾が、あたかも水に落ちた石のように、微妙にカーブしながら落ちていく様子を上からとったシーンが繰り返し思い浮かぶばかりです。地上には人間がいるのですが、映画に降臨した天使はどこに行ったのでしょう。 見終えた会場で、渋谷哲也というドイツ映画の研究者のレクチャーを聴きました。ゼーバルトというドイツの作家の「空襲と文学」(白水社・ゼーバルトコレクション)という作品への応答としてこの作品を見るという、なかなか、刺激的なお話だったと思いますが、レクチャーの中で、ヴェンダース映画との関連も出てきたのですが、天使の行方については聴き洩らしたようです。 まあ、それにしても、ロズニツァの映画は疲れますね。今回は「戦争と正義」という組み合わせでしたが、「国家と正義」、「民族と正義」、「宗教と正義」、個人的には「教育と正義」あたりも浮かびますが、 「正義」が問い直されるべき時代 そういう時代がすでに到来していることを、ロズニツァは叫び続けているとボクは思います。誰か、後に続く人つづく人を期待しますが、かなり無理そうですね。 まあ、ボクには、とりあえず、ゼーバルト再読が課題の作品でした。イヤ、それにしても、2本続けてロズニツァは草臥れますね(笑)。 監督 セルゲイ・ロズニツァ 製作 レギーナ・ブヘーリ グンナル・デディオ ウリヤナ・キム セルゲイ・ロズニツァ マリア・シュストバ 編集 ダニエリュス・コカナウスキス 2022年・105分・ドイツ・オランダ・リトアニア合作 原題「The Natural History of Destruction」 2023・11・04・no136・元町映画館no212 ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.11.11 00:20:35
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