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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2024.03.04
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​​乗代雄介「パパイヤ・ママイヤ」(小学館)
 乗代雄介の作品にはまっています。図書館の棚から、適当に借りてきたこの作品は、昨夏だったか芥川賞を逃した「それは誠」(文藝春秋社)という、高校生の群像を描いた作品の一つ前の単行本で、かなり新しい作品です。
 何に興味があってハマっているのかということですが、作家​「方法意識」​ですね。
​どんな登場人物に、何を書かせようとしているのかな?​​
​ というあたりですね。の小説は、全体としてはもちろん小説なのですが、手紙、日記、語り、記録、というふうに、ある特定の文体を採用することによって、「出来事の時間」「書くという行為の時間」をずらすことによって生まれてくる、記述としては描かない
​「何か」​​
​ を狙っているんじゃあないか、で、その狙いは何だ、というふうな興味ですね。ボクが、ここで「何か」と考えているのは、所謂、「テーマ」とか「主題」とかと呼ばれているものとは少し違うものですね。 
​それがわかったらどうだというんだ!?​​
 ​と問い返されると困るのですが、まあ、そのあたりの作家の姿が見えてくると面白いんじゃないかという気分にすぎません(笑)。
 で、「パパイヤ・ママイヤ」(小学館)ですね。
​ガール・ミーツ・ガール!​
 一読、こてこての青春小説です。すぐ読めます(笑)。で、
 とりあえず、書き出しはこんな感じです。
​​​ これは、わたしたちの一夏の物語。
 他の誰にも味わうことのできない、わたしたちの秘密。
 もしもあなたが私の撮った写真を持っているなら話はちょっと変わってくるけど、そのほとんどんは世界に一枚しか存在しないものだし、そもそも、誰かさんを差しおいてあなたがそれを手に入れるなんて絶対にありえない。
 わたしにしたって、この夏の写真のことは、もう言葉で説明するのがやっと。例えば、あの日あの時、わたしたちの物語の入口を写した一枚。 
​笹藪の間に空いた砂利道をふさぐように建っている灰色のフェンス。網目にはいくつかの案内板が備えつけてある。南京錠を付けた閂が通されているけれど、フェンスと藪の間には人が通れるぐらいの隙間があって、そばには「歩行者通路」と書かれた赤いコーンが置いてある。​
​​(P001)​​​​
 この文章の書き手である「わたし」ママイヤちゃんです。高校生くらいの女の子です。「わたしたち」といっていますが、もう一人がパパイヤちゃん。高校2年生の女の子です。「わたしたち」の二人は今日、初めて会います。
 知り合った経緯とか、ママイヤ、パパイヤというネームの経緯は、そこら中にあるレヴューか、本があれば、このあと数ページも読めばわかりますから、まあ、お読みください(笑)。
 で、この作品で乗代雄介が持ち出してきたのが「写真」です。ちょうど、この作品を読んでいた時に、ボクの知り合いの中学生、我が家の愉快な仲間のオチビさんの一人ですが、彼女がデジタルとかスマホとかではない、フィルム使用のポケットカメラで写真を撮りたいのだけれど、ジージは持っているかといってきたので、事情を聴くと
​​​「流行ってるねん!」​​​
 ということで、この小説の設定に納得したのですが、引用にあるとおり、写真の画像の描写が文章にしてあるところが、ひょっとして、​​
作家のたくらみなのでは?
​ というのがボクの興味です。​​​ 写真を撮っているママイヤちゃんと、それを、横とかで見ているパパイヤちゃんが、作中での写真の意味について、青春ドラマのハイティーンの少女らしい会話をします。​​​​
「なんで好きなの、写真」
「わたしだけが気付いているって思えるから」
「何に?」
「この世界の」言ってから「なんだろ」と考える。「その美しさに?」
「えー」声はいつもにも増して長く伸びた。「いいじゃん」
力なく笑って手すりに両肘をついて、顔を隠そうとしている自分に気付いた。
「写真やるには弱すぎるよ、わたしは」そう言って遠くではなくすぐ下の海を見下ろす。「変わっちゃうのに耐えられないから」
「でも写真って、撮る方が気付いてなくても写るじゃん。それならよくない?」
私がそれについて答えられないでいるうちに、パパイヤは言った。
青春という言葉が思い浮かんだけど、恐怖とも感動ともつかないざわめきが心いっぱいに広がって口が動かない。(P162)
​ ここで、写真について語っているママイヤちゃんですが、主人公のキャラクターの描写が、作家の記述の狙いの第一番目にあることは、お読みになればすぐにわかるシーンですが、その後、撮るだけ撮って、今までは現像しなかった筈の写真を、夏の終わりのクライマックスのシーンでは、現像して二人で見ます。
 で、二人が見る写真の描写だけ引用するとこんな感じです。
 砂利道の脇に並んだ丈の高いヨシ。奥を見通せないほど密生しているが、何本か倒れて少しだけ明るく見える所に、斜めに倒れた自転車の後輪がかろうじて見える。
​原っぱの片隅にある小屋の中、寝そべって顔を出している白ヤギ。​
船だまりに係留されている沢山のボート。杭を挟んできれいに並んで、内側の白や淡い水色が明るく光を弾く。順行だから水は深い青、一面にさざなみが建っている。
半分ほど車で埋まった大きな駐車場の奥にぽつんと建つ観覧車。フレームに透けている青空に、一つ一つ色分けされたゴンドラが虹のように円を描く。

​ これを読みながら、この小説が描いている二人の夏はかなり以前に終わっていて、書き手わたしが、その時の写真を見ながら書いているらしい、その場面というか、記憶を反芻している雰囲気がただよっていて、すでに大人になった一人の女性が、ボクには浮かんでくるのですが、考えすぎでしょうか。
 まあ、それが、作家が方法的に意図したことかどうか、ボクには定かではありませんが、面白いことは事実ですね。ひょっとしたらこの作品は、青春ど真ん中の少女の「この夏」の思い出ではなくて、アラフォーだか、アラフィフだか知りませんが、まあ、そういうお年の方を励ます「あの夏」のお話かもしれませんね。​​​
 久しぶりに、​​

​​青春!​​

 いかがでしょうか(笑)。

 追記

 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)​​​

 



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最終更新日  2024.03.05 16:49:14
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