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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2024.03.10
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アリ・アスター「ボーはおそれている」109ハット
 一月ほど前のことです。上に貼ったチラシを一目見て同居人のチッチキ夫人が言いました。
​「私、これは行くわ。(キッパリ!)」​
「なんで?」
「なんか、情けない顔してはるやん。この人。」
​​​「ホアキン・フェニクスやん、ほら、こないだ、ナポレオンになってた、あんたは要ってへんけど。マザコンのナポレオンいうて騒いでたやろ、ボクが。」​​​
「ふーん、そうやったっけ。」
 ​で、劇場公開が始まって二人で出かけました。
​​​ 109ハットの小さめのホールでしたが二人以外には学生風の若い男性が二人だけでした。見たのはアリ・アスター監督​「ボーはおそれている」​でした。​​​
​ 見終えて、二つ向うの席のチッチキ夫人を振り返ると、彼女は、それぞれ席を立って出て行く青年たちを目で追いながら、声をひそめて言いました。​
「あの子ら、面白かったんやろか?」
「あんたはどうやねん。」
「わたしは、最初のシーンから、もういい、出て行きたい、の繰り返しやんか。なんなん、この映画。」
​「ふーん、ボクは、それでどうなるの?やったで(笑)ホアキン・フェニクス、ずっと情けない顔してたやん。それが見たかったんちゃうの?」​
​「あんな母親出てくる思わへんやん。」​
 ​見てすぐはかなりお怒りでしたが、家に帰ると質問攻めでした。
「最初、さあ、子供産んだばっかりの女の人が叫んでるこえきこえてくるやん。アンナン、できへんと思うねん。産んですぐやでぇ。」
​「やからできるねん。」​
「誰の?」
​「主人公。」​
「どういうこと?」
​「ボクはな、はじめから終わりまで、みんな、ボーいう男の人の夢や思うねん。まあ、当てずっぽうやけど、きっと。」​
​「みんな、やったん?」​
​​「ほら、この前からホサカがおもろいこというてるって騒いどったやろ。で起こることって、あり得へん事でも見てて疑わへんって、そういえばそうや、おもろいなぁって。」​​
「そやから、起こること、全部、どこか変やったん?」
​「そうやん、ボクらにはちゃうもん。」​
​「ボーにはホンマのこと?」​
​​「まあ、そういいたいんやろうな。ボク、見始めて、すぐ、ホサカの話思い出したから、ふーん、ソウナン?!って見てた。」
「ずっと?」
「うん。」
「最後、爆発すんのは?」​​

​​「夢の終わり。目覚めたら、また、あの情けない顔。」​​
​「おかーさんは?」​
​「映画の今、実在やとしたら、生きてる。知らんけど。ほんでな、ボーのマザコンの様子の描き方は、アメリカの人が好きらしい精神分析の発想の、まあ、映像化に見えた。」​
「どいうこと?」
​​​​「あんな、人間ってな、大人になって、自分は、とか、私とか、主体とか、自己とか、思ってるけどな、それって、小さいころに母親とか父親の喜んだり怒ったりすること、まあそれを他者の欲望っていうねんけど、それを見て、それに合わせて自分って出来ていくいう理論。で、ボーのおかんってシングル・マザーやろ。そやから、父親は、人格のないチンチンのバケモンでしかないいうことになるわけ。なんか、そんなシーンもあったやん。」​​​​
「天井裏?」
​​​​「うん、父親がそれやったら、男の自分はなんや?ってなるやろ。無意識を占拠してるのは全部母親の欲望で、なおかつ自分は男やで。困るやろ。」
「なんなん、それ。」
「途中、子ども部屋で目覚めるやろ。ボーって、見るからにもう中年すぎてるやん、なんか、不気味やろ。」
「あの年になっても、始まりに支配されてるいううわけ?あかんわ、そんな話。あの子らどう思って見てたんかな?ちょっと、感想聞きたいわ。」
「さあなあ、若い人、どうなんかなあ。ボクのは当てずっぽうやか、あてにならんけど、そんな、フロイトとかについて知らんやろうからなあ。わけわからんホラーなんちゃう?ただ、ボクは、なんか、醒めて見てたいうことやん。この監督さん、たぶんそういうのン好きやねんきっと。」​​​​
​​​​ と、まあ、あれこれ盛り上がったのですが、どうなんでしょうね。文字通り素っ裸で走り回ったホアキン・フェニクスさんに、ご苦労様でした拍手!ですね。いやはや、俳優というのも大変ですね(笑)。​​​
 ところで、上の会話の中でホサカと呼んでいるのは、作家の保坂和志です。で、引用は「世界を肯定する哲学」という新書の次の箇所です。​​
​「夢は無意識の発露である」というのがフロイト以降の定説となった定義だけれど、夢には忘れられがちなもっとずっと大きな特徴がある。それは「夢の中では何歳になっても与えられた状況を真に受ける」ということだ。(「世界を肯定する哲学」ちくま新書)(P152)​
​​​ ​それから、​ジャック・ラカン​についての話は、まったく偶然だったのですが、ここのところ読んでいた竹田青嗣という批評家の「新・哲学入門」という新書の次のような記述を頭に浮かべています。​
​​​​ ラカンは、フロイトの去勢複合の仮説を精神分析理論の核心として受け取り、疎外された自己統合としての人間主体、という独自の像を提示する。その力点を「反―主体の形而上学」と呼ぶことができる。
 《主体は、もともとは欲望のバラバラの寄せ集めです。これこそ「寸断された身体」という表現の本当の意味です。そして、「エゴ」の最初の統合は、本質的に「他我(アルター・エゴ)」であり、それは疎外されているのです。欲望する人間主体は、主体にまとまりを与えるものとしての他者を中心として、その周りに構成されます。そして、主体が最初に対象に接近するのは、他者の欲望の対象として体験された対象なのです》​(「精神病の問いへの序論」ジャック・ラカン「精神病」岩波書店)​
 幼児は、鏡像段階以前(自我が統合される以前)では、自己身体を寸断された像としてもつため、このバラバラの身体としての自己を統一された「主体」として形成する上で、「他我」、つまり「他者の欲望」を必要とする。人間は、自分の欲望を自分で構成することはできず、他者の欲望によって自分の欲望を形成する。この意味で、人間の「主体」は本質的に「疎外」されたもの、いわば他我によって想像的に”騙り取られたもの“であるとされる。(竹田青嗣「新・哲学入門」現代新書)(P147)
​​​​​​​​ ゴシック体は、ボクなりです。論の真偽はともかくとしてですが、最近、面白がって読んでいる1冊です。映画にかぎらず、小説、詩歌とか絵画、写真とか、ボク自身が
​​何を見て、何に反応しているのか?​
 ​を考え込むことが、最近よくあるのですが、そういうときの参考になります。ラカン、ポンティ以降の人間理解は、よくわからないなりにスリリングです(笑)。
 で、最後になりましたが、この​​​​​​「Beau Is Afraid」という作品で、あの年齢まで、ボー怖れ続けているという考え方が、ある意味でホラーだと思うのでした。アリ・アスター監督が採用しているとボクが考えている人間理解の考え方が、でたらめだとは思いませんが、
​なんだか、図式的だよなあ?!​
 という感じなのでした。​​​​​​
​​​​​​監督・原案・脚本 アリ・アスター​​

撮影 パベウ・ポゴジェルスキ
美術 フィオナ・クロンビー
衣装 アリス・バビッジ
編集 ルシアン・ジョンストン
キャスト
ホアキン・フェニックス(ボー・ワッセルマン)
ネイサン・レイン(ロジャー)
エイミー・ライアン(グレース)
スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン(セラピスト)
ヘイリー・スクワイアーズ(ペネロペ)
ドゥニ・メノーシェ(ジーヴス)
カイリー・ロジャーズ(トニ)
アルメン・ナハペシャン(少年時代のボー)
ゾーイ・リスター=ジョーンズ(若き日の母親)
パーカー・ポージー(エレーヌ)
パティ・ルポーン(モナ・ワッセルマン)
2023年・179分・R15+・アメリカ
原題「Beau Is Afraid」
2024・02・29・no034・109ハットno40
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 追記

 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)​​



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最終更新日  2024.03.11 00:48:00
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