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カテゴリ:読書案内「近・現代詩歌」
穂村弘×東直子「回転ドアは、順番に」(ちくま文庫) 唐突ですが、あの小野小町にこんな和歌がありますよね。
恋ひわび しばしも寝ばや 夢のうちに 見ゆれば逢ひぬ 見ねば忘れぬ 「こひわび」なのか「おもひわび」なのか、ボクには、まあ、判然としませんが、それはともかく、恋する乙女には「夢」なんですよね、カギは。 で、これに返事する人が出てくれば「相聞歌」ですよね。今回の読書案内「回転ドアは、順番に」(ちくま文庫)は穂村弘と東直子という現代歌人二人による、いわば、相聞歌集なのですね。 もっとも、お二人とも還暦を過ぎていらっしゃるようですから、まあ、ごっこというこというか、気鋭の現代歌人共作の相聞和歌小説とでもいうべきかもでしょうね。 で、平安の昔であれば文であったのでしょうが、現代では、お二人の間を取り持つのはメールです。 俳諧には付け句ということがありますが、連歌の伝統を考えれば和歌にもあったはずで、それをお二人でやっていらっしゃるという面白みですね。 出会いは、ある年の春です。で、やがてめぐってきた再びの春に別れがやって来ますね。ボクは一年間の出来事として読みましたが、さて、短歌とメールが描き出す歌物語の主人公にはどれほどの歳月だったのか、まあ、お読みくださいという感じですね。 最初のページにこんな短歌が出てきます。 遠くから来る自転車をさがしてた 春の陽、瞳、まぶしい、どなた 巻頭、この歌を詠み、「夢見ていた」とメールに書いているのは東直子さんです。 日溜りのなかに両掌をあそばせて君の不思議な詩を思い出す と答えて、夢から覚めたのが穂村弘さん。恋の季節の始まりです。 歩くなら一人がいいの青空に象のこどもがうまれたように 東直子さんのオシマイの短歌とメールです。メールで相聞される短歌がやがて、こんなふうにとじられるまで、さて、何首の歌が詠まれたのか。で、二人に何があったのか。そのあたりはお読みいただいて、ということですね。なかなか、いけますよ(笑)。 最後の最後は、元に戻って、こんな結末でした。 日溜りのなかに両掌をあそばせて君の不思議な詩を思い出す 1冊にまとめられた、二人の夢の跡ということでしょうか。まあ、それにしても、達者なものですね(笑)。
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最終更新日
2024.06.19 14:28:52
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