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カテゴリ:読書案内「翻訳小説・詩・他」
竹内康浩・朴舜起「謎ときサリンジャー」(新潮選書) 何故だか、
今時、サリンジャー? なのですが、2023年の秋あたりから、ボクのなかではブームです。 で、今日の案内は、竹内康浩という、北大の研究者のようですが、まあ、その方が朴舜起という、博士課程あたりの若い方と連名で出されている新潮選書、「謎ときサリンジャー」です。 新潮選書といえば、かつて、まあ、今でも読めますが、江川卓というロシア文学者による「謎解き罪と罰」をはじめとするドストエフスキーの謎解きシリーズがウケたことがありますが、市民図書館の棚で、本書の表紙を見て 「ああ、あれだな。」 と思って借りてきました。 このタイプの評論は、「読んでから読む」についていえば、原作を読んでからなぞ解きを読むでないとあんまりぴんと来ないわけですが、本書もそうでしたね。 というわけで、 サリンジャー好きやねん! の人向けです。 ちなみに、J・D・サリンジャーは、1919年生まれで、兵学校とかを何とか卒業して、第二次世界大戦でヨーロッパ戦線に従軍し、帰還した後、1950年の「ライ麦畑でつかまえて」で、一躍人気作家になりましたが、1965年、「ハプワース16、一九二四」という作品を最後に筆を折り、2010年に亡くなるまで、40年以上隠遁生活を続け、沈黙を守った人です。 邦訳されいる作品しか知りませんが、野崎孝の訳で「ライ麦畑でつかまえて」(白水社)が1964年に出て、その後、「ナイン・ストーリーズ」(新潮文庫)・「フラニーとゾーイー」(新潮文庫)・「大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア-序章-」(新潮文庫)が出ていて、つい最近、金原瑞人の訳で「このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年」(新潮社)・「彼女の思い出/逆さまの森」(新潮社)という短編集が出ましたが、それですべてだと思います。 まあ、村上春樹が新訳を出して話題になったり、最近も、柴田元幸の「ナイン・ストーリーズ」の新訳が河出文庫になったりして、何故か、話題には事欠かないのですが、作品数は、案外、少なくて、その気になればすぐに読むことができます。 発表されている小説の内容は「ライ麦畑」の主人公だったホールデン・コールフィールドの家族を描いた数編の短編と、「フラニーとゾーイー」で有名ですが、長兄のシーモアから末っ子のフラニーまでの7人兄妹と、アイルランド系の母ベシーとユダヤ系の父レスのグラス家の家族の物語、所謂、グラス・サーガの、ほぼ、二種類です。 で、なにが謎なのか? ようやく、今回の「謎ときサリンジャー」にもどってきましたが、 「バナナフィッシュにうってつけの日」というあまりにも有名なJ・D・サリンジャーの作品は、一発の銃声で締めくくられる。 と、本書の冒頭で竹内先生はおっしゃっています。 まあ、わかったような、わからないような問いの設定なのですが、ちょっと付け加えると、「バナナフィッシュにうってつけの日」という作品は「ナイン・ストーリーズ」という初期短編集に収められていて、書き手として登場するのは次男のバディ・グラスです。後の作品群も同じ人物が書き手として設定されているといっていいのですが、最近出版された「ハプワース16、1924年」という作品が、まあ、サリンジャーによって一番最後にかかれた〈グラス・サーガ〉なのですが、そこで、シーモアは7歳です。作品は、後に作家になったバディが、確か、母の戸棚から出てきたシーモアの手紙を写しているという設定でした。 〈グラス・サーガ〉という作品群の特徴は、発表順に読んでいくと、最初の作品で自殺したシーモアが、だんだん若くなっていきます。とりあえず、ボクのような読み手が引っかかるのは、そういう書き方なのですが、本書の著者グループは、そこで、 「その時、シーモアはホントに死んだのか?」 と問いを立てることで、サリンジャーという 作家の「正体」に迫ろうとしていて、なかなかスリリングでした。 お好きな人は気づいておられると思うのですが、 「ないのにある、あるのにない」、が、グラスサーガだけではなくてライ麦畑にも、結構、転がっているんですよね。そのあたりを嗅いでいくと・・・(笑)。 まあ、そこから先は サリンジャー好きやねん!の人にお任せしますね(笑)。
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最終更新日
2024.07.23 09:19:55
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