ガス・バン・サント「ドント・ウォーリー」シネ・リーブル神戸no51
ガス・バン・サント「ドント・ウォーリー」シネ・リーブル神戸 映画com 依存症と身体障碍者のアメリカを描いた映画だと思いました。三十年間留守にしていた映画館に戻ってきて一年ほどたちましたが、アルコールや薬物の依存症に対する社会の対応、とくにアメリカやヨーロッパの集団カウンセリングのシーンが映画によく出てくることに驚いています。 この三十年で、たとえば「PTSD」などという省略言葉がすっかり普通の言葉になりました。うつ病や自閉症にかかわる様々な「disordersディス・オーダー」、ぼくはこの言葉に「障害」という訳語を当てる日本語に引っかかるものを感じる人間ですが、それはともかく、例えば教育の現場ではLDとかADHDなどという用語が、常識用語のように使われるようになりました。 ぼくも含めて、誰もが本当はよく知らないし理解もしていないのに、「disorders」が一人で歩いているイメージを持っていました。本人の納得ではない、教員の安心が優先されている苛立ちを感じ続けてきました。そのまま退職しましたが、該当項目の一覧表によって診断するという「合理性」はもちろんアメリカ由来でしょう。「アメリカではどうなっているのか?」 診断一覧表と該当者との間にある「ズレ」、そこをホアキン・フェニクスという俳優は見事に演じていました。 主人公ジョン・キャラハンを演じるホアキン・フェニクスは、ぼくには初めて出会う役者でした。映画はダメな奴がイケテル奴へと成長するビルドゥングスの物語なのですが、そういう映画にありがちな、予定調和的な「ありがち感」をどう越えるかというのが見どころだったと思いましたが、この俳優はなかなかやってくれますた。 表情と身体動作のチグハグさとでもいえばいいのでしょうか、ある種のアンバランスを本能的に演じているように見えました。そして、そこに微妙な苛立ちと哀しさが浮き上がってくる印象なのです。 気遣われ、「普通」から隔離され続ける「disorders」という存在の悲しみといえばいいのでしょうか。最後のフルスピードで走る電動車椅子のシーンは、もう、圧巻でしたね。まさにアメリカ映画の明るさが輝いていました。 すでに、いろいろ評価されている人のようですが、ぼくにとっては新しい出会いでした。ちょっと期待しますね。監督 ガス・バン・サント 製作 シャルル=マリー・アントニオーズ モーラ・ベルケダール スティーブ・ゴリン ニコラ・レルミット製作総指揮 ブレット・J・クランフォード脚本 ガス・バン・サント撮影 クリストファー・ブロベルト美術 ヤフミン・アッサ衣装 ダニー・グリッカー編集 ガス・バン・サント デビッド・マークス音楽 ダニー・エルフマンキャスト ホアキン・フェニックス(ジョン・キャラハン ) ジョナ・ヒル(ドニー) ルーニー・マーラ(アヌー ) ジャック・ブラック(デクスター ) マーク・ウェバー ウド・キア キャリー・ブラウンスタイン ベス・ディットー キム・ゴードン原題「Don't Worry, He Won't Get Far on Foot」 2018年 アメリカ 113分 2019・05・22シネ・リーブル神戸no51ボタン押してね!