週刊 マンガ便 池田邦彦「国境のエミーリャ(1)」(小学館)
池田邦彦「国境のエミーリャ(1)」(小学館) 「ゆかいな仲間」、ヤサイクンの三月のマンガ便に入っていました。どこで見つけたんでしょうね、全く知らないマンガ家さんです。 パラっとページを繰ってみると、第一章が「寒い国からの手紙」となっています。1962年の東京が舞台ですね。ただし、東京は1946年、第二次大戦の敗戦以来ソビエト連邦とアメリカによって東西に分割占領され、壁によって西東京と東東京という政治形態の異なる二つ国に分けられているという設定で描かれているマンガです。 この表題を読んで『寒い国から帰ってきたスパイ』(The Spy Who Came in from the Cold)という小説を思い出しました。イギリスの作家ジョン・ル・カレの傑作スパイ小説です。 たしか東ベルリンから壁を越えて脱出しようとするスパイのお話しだったと思いますが、映画にもなりました。「サウンド オブ ミュージック」がアカデミー賞をとった1966年の映画ですね。主演のリチャード・バートンがアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた映画ですが、見たと思いますが、原作の方が面白かったことだけ覚えています。原作は早川文庫に翻訳があります。ぼくは、その後、ジョン・ル・カレのスパイ小説の主人公、ジョージ・スマイリーとは30年に渡る長い付き合いになりましたが、最近はご無沙汰です。 さて、マンガですが、今はなくなった「ベルリンの壁」ならぬ、「東京の壁」をめぐるお話しです。向うに東京タワーが見えますが、壁のこちら側が東京のどのあたりなのか、ぼくにはわかりません。 アップの少女が「日本人民共和国」から「日本国」への脱出を手助けする「脱出請負人・杉浦エミーリャ」ちゃんで、マンガは彼女の活躍の物語ですね。まあ、お嬢ちゃんではなくて、おねーさんですが、とりあえず「ちゃん」で呼びますね。上野駅は「十月革命駅」と名前が変わっていて、駅前にレーニン(?)の銅像がありますね。駅の中にある人民食堂で働いているのが主人公です。 ちょっと蘊蓄ですが、実際に「ベルリンの壁」ができたのは1961年のフルシチョフ・ケネディ会談の決裂の結果で、このマンガの1962年という設定は、ある意味でリアルなんですね。そのあたりもちょっと面白いですね。 何しろマンガは「絵」が驚くほど下手で、何だか同人雑誌掲載のマンガみたいなのですが、ストーリーは、そこそこ読ませます。といって、設定も斬新とまでは言えません。というのは、戦後の日本列島の分割占領というアイデアは、エンターテインメントの世界でも、必ずしも皆無ではなかったと思います。が、面白いものですね、本物の「ベルリンの壁」が消えて、30年たった今、この設定が何だか妙にリアルなんですよね。で、2巻以降が楽しみになってしまいましたということです。 ボタン押してね!ボタン押してね!【中古】 われらが背きし者 岩波現代文庫 文芸281/ジョン・ル・カレ(著者),上岡伸雄(訳者),上杉隼人(訳者)