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カテゴリ:読書
この本はタイトルに惹かれて手にとりました。
けっして作者の曾野綾子ファンではありません。 簡単に言えば、主人公の青年がまだ学生でありながら親に黙って盲目の女性と結婚し、子供の父となるお話です。 作中にはふたりの青年・ふたつの家族が出てきます。 どちらも世間的には恵まれた、この小説の書かれた昭和30年代では豊かな家庭で育った青年達です。 酒匂家の次男基次は、東大から日銀へと進み釣り合いのとれた家柄の娘とお見合い結婚した兄と比べ、勉強も出来ずパチンコ屋の店員となり、盲目の少女と結婚してしまうのです。 次男を愛する母が存命中はまだ表面上の問題はなかったのですが、母の死により(この母の看病を家族の中で一番一生懸命したのは、次男の妻であり次男であったのです)・・・ 自分たちのプライドを保つために必死で、弟夫婦の存在を認めようとしない兄夫婦。 社会的な地位・家柄によってつながった家族にとって、基次夫婦は自分たち夫婦とは関係のない人間であり、そう対応してしまうのです。 妻を亡くしたことによる自分の存在感の喪失・空虚な心を抱えてしまう父親。 家族の心を支えるだけの力のない父親は、離れてみていることしかできません。 実家に自分たちの居場所のないことを知っている次男は、母の死後すぐに小さなアパートに引っ越していきます。 しかしその妻が子供と一緒に交通事故に遭い亡くなってしまうのです。 その不幸の後、兄は「今度こそ、健康で美人で家柄もいい娘をもらうんだな。好子さん(次男の嫁)の場合は一人前に生きていくのが最初から無理な人なのだから」という言葉を。 基次も結局自殺してしまいます。 この小説の中でひとつの救いは、基次の友人・秋穂の存在です。 秋穂の父・越はふたりの通う神田大学教授です。 秋穂のユニークな言動とその結婚は、パワーにあふれていて爽快感があります。 基次のお葬式に行くため、秋穂が自分のロッカーへ行き、その隣に「サカワ・モトツグ」と書かれた名札を見るところで、この小説は終わっています。 とことどころに時代の古さの感じられる。 登場人物の性格はステレオタイプであり、障害者の扱いは悲惨さの感じられる作品でした。 しかし気負いのない淡々としたふたりの青年の生き方は、現代の若者達の生態に通じるものであるとの思いも持ちました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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