THE CHICAGO TRANSIT AUTHORITY/CHICAGO
'69年発表の1枚目。この時のグループ名はタイトルと同じTHE CHICAGO TRANSIT AUTHORITY。デビュー作にしてLP2枚組みという意欲作である。Chicagoというと甘いバラードのAOR路線に馴染みのあるファンが多いと思うが、初期の彼らはブラス・ロックという当時革新的なサウンドで、さらに歌詞は非常に政治色が強いという「進歩的」なグループであった。'69年というとアメリカはベトナム戦争の真っ只中で、各地で反戦運動が盛んな時期であった。彼らも反戦という政治的メッセージを前面に押し出し、反体制の姿勢を明確にしていた。当時ロックという音楽は、多かれ少なかれ反体制というか「大人」に反抗する「若者」のカルチャーという色合いが強かった。「若者」にとって「大人」は信じられないもの、「体制」は信じられないものであり、ロックはそんな「若者」の主張を代弁する音楽であった。そんなロックも'70年代後半のパンクを最後に、反体制的若者文化の色は薄くなり、ビジネスとして巨大化し、大人の世界でコントロールされていく。'80年代のMTVブーム以降、ロックに限らず、ポピュラー・ミュージックは「鑑賞」するものではなく、「消費」するものとなり、今やデジタル化された音をインターネットを通じてダウンロードし、iPodに代表される携帯プレイヤーで個人個人が聞くことが日常となってしまった。「最近のロックは・・・」「最近の若者は・・・」と嘆くのは簡単である。しかし'60年代、'70年代に「若者」として過ごした我々に罪は無いのだろうか?「大人」になり、「体制」の中で働いている世代は、現代の「若者」が「反抗」するに値する明確なメッセージを発してきただろうか。今一度このアルバムを聴いて、若かった、大人が信じられなかった自分に戻り、大人になった今の自分を見つめ直すことも必要かもしれない。