桜庭一樹 『青年のための読書クラブ』
名門お嬢様学校・聖マリアナ学園に綿々と続く「読書クラブ」。西の官邸と呼ばれる生徒会と東の宮殿と呼ばれる演劇部という二大勢力の間で、ひたすら静かに見つからぬように崩れかけたビルに集う学園の異端者たち。それは、学園の正史から抹殺された黒歴史とも言うべき数々の珍事件を記録し、後世に伝えていく集団であった・・・ 時代の異なる5つの物語で聖マリアナ学園の100年にわたる歴史を綴った連作形式の作品。学園創立の裏話を絡めた「聖女マリアナ消失事件」はともかく、他の4作はいずれも毎年選ばれる王子など女性社会における英雄の存在を中心に、閉ざされた社会での熱病のような熱狂ぶりが描かれています。 ただし、桜庭一樹という常に少女を書き続けてきた作家にとって、本領を発揮できるのはこうした熱狂する少女ではなく、そこから一歩退いて遠い目で熱狂ぶりを眺めている少女、あるいは否応なしに渦の中心に押し込まれてしまう少女のような気がします。 本書における主人公は、「読書クラブ」で息を潜めるかのように本を読んでいるような少女たちです。であれば、桜庭さんにとっては当然得意な分野。おもしろくならない訳はありません。そして実際おもしろいのです。 しかし、読んでいて物語に乗りきれず、物足りなさを感じたのも事実。聖マリアナ学園の100年の歴史という観点から、『赤朽葉家の伝説』のような作品を想像していたので、ちょっとイメージとは違ったからでしょうか。あるいは、桜庭さんに対する期待が大きすぎたのでしょうか。おもしろいけれど、桜庭さんならもっとおもしろくできたはず、というように。収録作:「烏丸紅子恋愛事件」「聖女マリアナ失踪事件」「奇妙な旅人」「一番星」「ハピトゥス&プラティーク」2007年8月15日読了