【ホンダ『エレメント』発表】
・建造物に近いデザイン手法を選択 「開放感を生み出すため、ドアの開口部を大きく取ろうというコンセプトはデザイン以前にありました。観音開きのドアを採用し、バーンと大きく開くというアイデアもかなり初期の段階で生まれています。問題はそれをエンジニアリングにどう反映させていくのかということ。強度の問題など、クリアしなくちゃならない課題はいろいろとありました」とLPL=ラージ・プロジェクト・リーダー(開発責任者)の松嶋稔郎さんは当時を思い出す。「自由な雰囲気の象徴としてライフガードステーションをモチーフにすると決めたとき、クルマとしてのデザインではなく、暴風雨にも耐えうる建築物的なアプローチで攻めた方がいいのではないかと誰かが提案したのですが、そこからは早かった。クルマらしからぬ骨太な感じとか、動いているときのスタイルを重視せず、あくまでも置いているときのスタイルを優先するなど、今までのクルマのデザイン手法とは一線を画すような感じで全てが進みました」「レジャー先で楽しむためのベースステーションとして使うクルマでもありますから、動いている状態を重視しないというのは結果的に大当たり。このクルマを特徴づけている大きな開口部なんて、止まっているときにしか使えませんからね(笑)。総合的に見ても、これまでにないクルマに仕上がったと自負しています」と語る。プロジェクトが動き出したのは1999年末。そしてほぼ1年後の2001年1月、デトロイトモーターショーで『エレメント』の先行モデルである『Model X』コンセプトが公開される。ボディ構造など、市販化を前提にしたリファインを繰り返し、昨年12月からアメリカでの販売がスタート。月販は平均6000台を記録しており、売れ行きは上々だという。 ・発表も不発---ホンダが急反落 全体相場は小幅ながら続伸。国際優良株は売りに押され、自動車株は高安まちまちとなった。ホンダが、前日比160円安の3810円と3日ぶりに急反落。新型SUV『エレメント』を発表したが、持ち合い解消の売り、企業年金の代行返上に伴う換金売りが相次ぎ、1月末以来の年初来安値更新。トヨタ自動車も30円安と下げ、マツダもさえない。スバル富士重工業はサーブとの提携を正式発表したが、株価は8円安の428円と反落。一方、売り圧力の少ない日産自動車が13円高の857円と3日続伸。スズキが32円高と上げ、いすゞ、ダイハツ工業もしっかり。 ・若者が等身大で乗れる“かっこいいクルマ” ホンダ『エレメント』は「北米に住む20~30歳代のアクティブな世代」をメインターゲットに開発が行われてきたクルマだ。開発スタッフも若いアメリカ人が中心。マーケットリサーチも北米で行われている。「ふと気がつくと、今のホンダには若い世代にアピールできるアクティブなイメージのクルマが無くなっていたことに気づいた。それが開発を進めることになった理由のひとつです」と開発責任者の松嶋稔郎さんは語る。アメリカ人がホンダに持つイメージは「若々しく、アクティブなクルマを作る会社」だという。ところがホンダの主力車種がミニバンに移行し、開発陣の中からも「ファミリー向けではなく、若いスタッフが等身大で乗れる快活なイメージのクルマが欲しい」という意見が増えてきた。そして、それを実現させるために動き出した開発プロジェクトだったという。若者向きということで考えると、アメリカでも販売している『CR-V』が当てはまりそうな気もするが、松嶋さんは「CR-Vは北米だと小回りが効いて買い物に便利な“Mammys Car”という扱い。日本で言うところの主婦向け軽自動車といった感じでしょうか。そうしたクルマに若者が乗ると“ダサイ”と言われるので敬遠してしまう」という。若者が乗っていて違和感のない、(アメリカ人にとって)カッコイイと思えるクルマを作ることがラインナップに穴を開けないという意味でも急務だったのだ。