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幸せの催眠法 長尾式催眠療法

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2009.10.02
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カテゴリ:催眠術全書
長尾盛之助著 催眠術全書から 

 

昭和33年4月27日施術

 静岡県清水市 池田洋子さん、12歳(中学生)

 静岡県清水市の有名なS病院長の紹介状を添えて、てんかん患者の父親から、催眠術施術依頼の手紙が来た。

 そこで、当方の都合のよい日と、施術の場所は学校でも自宅でも、どちらでもよい旨、早速返事を送った。すると場所は拙宅で願うとの電報が来た。

 患者は、中学1年の女生徒、池田洋子さん、父親の栄一さんが付添人として同伴してこられた。栄一さんの話によると、

 洋子さんは5歳の時に発病し、てんかんと診断された。以後しばしば起きるという。普通のてんかんは、そのまま寝させておくと5分ぐらいで回復するというが、洋子さんはてんかんが起きると、医師から注射の手当てを受けなければなおらない。医師の都合の悪いときは、全身のけいれんが止まらず、何時間でも苦しむという症状。

「この子が、てんかんを起こして苦しむのを親として見るに忍びないのです。長い時は3時間ぐらい苦しみ続けます。注射が効いてくると、それでようやくなおりますが、疲れてしまって、いつも3,4日は病床に寝る習慣です」

 と、こまごまと病状を訴えてから、栄一さんは、なおも話を続けた、

「子のこの病気が、いつ起きるかわからないため、学校へ行っても帰宅するまでは安心ができません。学校からの遠足や修学旅行なども、この語だけに親がついていくのも恥ずかしがりますし、親がついていなければ、発病した時大変ですから、遠足も修学旅行も一切お断りしております。そのためにこの子も、恥ずかしい思いをしております。よそのお子供さんは、修学旅行の日を楽しんでいますのに、この子だけが参加できないのは、気の毒に思い、修学旅行の日が来ると、悲しくなってしまいます」

「子のこの病気をないしてやりたいために、各地の医院、病院をたずね、今年で8年間、多くのお医者様の厄介になりましたし、そのほかに、まじないやご祈祷など人様のよいとおっしゃることは何でもお頼みしてまいりましたが、何の効果もございませんでした」

 難病の子を持つ多くの親たちが経験せられる悲しみであろう、私はこの人の心中を察し同情に耐えなかった。

「先日発病しました時、S病院でお世話になりましたところ、院長先生のお話ではてんかんは脳の手術でなおることもあるというが、脳の手術は普通の病院ではできないし、必ずなおるという保障もできないということだ。この病気はいまのところ、催眠術以外になおる見込みがないから、催眠術を掛けてもらいなさい、とおっしゃって紹介状を書いていただいたようなしだいでございます」

 と、このように語っているとき、洋子さんがお手洗いに行った。そこで栄一さんは声を低くして、

「いつも発病ごとに、あの子が長い時は3時間も四苦八苦の苦しみをします。手の施しようもなく、それをそばで見ている親として、これほどつらいことはございません、私ども親子は何という不幸なは回り合わせに生まれたのだと、悲観してしまうことがあります。あの子があまりにも不憫ですから、いっそ一思いにあの子を殺し、一家心中をしようかと思ったことも、一度や二度ではございませんでした」

 と、栄一さんは深刻な表情で語るのでした。

「よくわかりました。御同情申し上げます。私は、てんかんをなおした多くの経験を持っております。ご安心ください、催眠術によって、必ず直してあげますから」

 と、私は栄一さん親子に深い同情を寄せるとともに、確信のほどを披瀝し、二人を力ずけた。

 洋子さんは、この病気のために時々学校を休むが、学業成績は決して悪くないと栄一さんの話だった。そこで私は、この病気による知能の影響について、次のようにつけ加えた。

「小さい時から今日まで、たびたびてんかんが起きましても、そのために脳髄を冒されるようなことはありませんから大丈夫ですよ。昔からてんかん患者であって、世にもまれな天才偉人ーえらい人ーが多数出ております。この一世の英雄ナポレオンもてんかん患者だったのは有名な話です。ですからたとえてんかんを長く患っても、精神作用には決して冒されることがないのですから、安心してよいですよ」

 このような話をしてから、次で洋子さんの気持ちをやわらげ、親近感を与えるために、学校のことなどについて、いろいろと雑談を交わしてから、話題を催眠術に変えて、

「催眠術は、眠りを催すという字ですけれども、決して眠るわけではありませんし、決して恐ろしいものではありませんよ」

「あなたの病気を必ずなおしてあげますから、安心していらっしゃいよ」

「では、これから始めますから、気持ちを落ちついて、私の言うことに注意して聞いてくださいよ・・・・・目を閉じてください」

「私が、はいッ・・・・・と言って合図をしますと、それで催眠術がかかるのですよ、いいですか、合図をします・・・・・はいッ」

「両手が上がります、まだまだ上がります、あなたが手を上げようと思わなくっても、手がそのように自然に上がります、おかしいでしょう」

 この暗示によって洋子さんの両手は高く、万歳をするときのように上がった。

「そのままで目をあいて私の方を見てください。私のするようにあなたの両手を頭の上にのせてください・・・・・そうです、そのとおりです」

「私が、また合図をしますとその手が離れなくなりますよ、いいですか・・・・はいッ」

 と合図をしてから

「ためしてごらんなさい、手が頭から離れないでしょう、どんなに力を出しても離れませんよ」

 洋子さんは、両手を頭から離れさせようと努力するが、とても離れない。そばで不思議そうにジッと見つめている栄一さんに向かって、

「お嬢さんの両手を強く引っ張ってみてください、手が決して離れませんから」

 というと、栄一さんは力をこめて両手を引っ張ってみたが離れない、あまり強く引くと洋子さんの体が倒れそうになる。催眠術が完全にかかったことが、この親子に立証できたわけである。私はさらに2,3の観念現象を起こさせてから、

「では、病気治療の暗示を与えますよ、はっきり聞いていてくださいよ」

 といっておいて、私は厳格な口調でそして全精神力を傾けて、次の暗示を与えた。

「催眠術によって、いま私の言うことが、あなたの脳にはっきりを記録されます」

「あなたの病気は、ただいま完全になおった。きょうから後は、決して再発することはありません。このことをはっきりあなたの脳に感銘させます」

「もう一度言いますよ、催眠術によって、あなたの病気は全治しました。あなたも病気がなおったという自信を持ってください。病気はなおりました」

 洋子さんは、目を閉じたまま、熱心にこの暗示を聞いた。

「もうこれでよろしいですから、催眠術を解きますよ。私が1,2,3と三つ数えますから、三つ目に催眠術が解けて、あなたは静かに目をあきます」

「催眠術が解けると、頭が軽いような感じがして、気分もよく愉快な気持ちになります・・・・・では数えますよ、1・・・・・2・・・・・3、はい、これで終わりました」

 

 清水市へ帰った栄一さん親子は、S病院長を訪ねて委細を報告せられた由で、その後今日まで再発しない由、同病院長からは、その後数人のてんかん患者を紹介してきましたが、いずれも一回の施術で全治した。





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Last updated  2009.10.02 21:45:39
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