長編時代小説コーナ
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龍5777
基本的には時代小説を書いておりますが、時には思いつくままに政治、経済問題等を書く時があります。
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「士道惨なり」(25) 「十右衛門・・・矢張り下郎よな、忍び者の根性を見届けた」 弦次郎が殺気を漲らせ前進をはじめた。 「殺せ」 稲葉十右衛門が弦次郎の気迫に押され声を高めた。 「おう」 おめき声をあげた目付と藩士の一部が一斉に抜刀した。 「弦次郎っ、お主の気の向くままにいたせ」 土井武兵衛が弱々く弦次郎に声をかけ眼を閉じた。 弦次郎が羽織を脱ぎ捨て猛然と藩士等の群れに跳びこんだ。 村正が朝日を受けきらきらと輝き、朝の清冽な光景に血飛沫があがり、 血の臭いが漂った。跡には朱に染まった藩士が焼け跡に転がっている。 「押しつつんで膾(なます)にいたせ」 稲葉十右衛門がわめいた。弦次郎の周囲は白刃が連なり、眼を剥いた 藩士等が蒼白な顔をみせ身構えている。 「お主達、数を頼んで斬りこんで参れ。全て冥途に送ってやろう」 弦次郎が挑発の言葉を発し、村正を構えなおした。 「死ね-」 無謀にも若い藩士が死の淵に飛び込んできた。 村正が唸り下段から跳ね上がり、相手の首を薙ぎ斬った。 血潮と共に首が宙に舞い上がり、取り巻いた藩士から恐怖の声があがった。 弦次郎は獲物を狙う鷹のような素早い動きを示し、群れの中に飛び込んだ。 死中に活を求める、そんな気持ちであった。 血煙が舞い骨肉を絶つ壮絶な音が響いた。袈裟斬り、逆袈裟、空け胴と 弦次郎は阿修羅の勢いで秘剣を振るい、獲物を確実に捕らえていた。 「殿じゃ、殿が参られたぞ」 藩士から声があがった。 騎乗した忠義が顔面を紅潮させ、弦次郎の目前に姿をみせた。 村正を素振り血潮を払った弦次郎は、大刀を斜め下段に構え、忠義の顔を 半眼で見つめ乾いた声をあげた。 「これは黒岩藩主の忠義さまか」 弦次郎の衣装は血で汚れ蘇芳色に染まっている。 「弦次郎、余に楯をつく積もりか?」 忠義が怒りの声で叱責した。 「これは異なことを聞くもの、以前は知らずここに居る拙者は黒岩藩の 家臣ではござらん」 弦次郎が吐き捨てた。 「なにっ・・・矢張り狂っておる。こ奴を斬り捨てえ」 忠義の下知で命を捨てた藩士が、凄まじい攻撃を浴びせてきた。 村正の切っ先がぱっと煌き、藩士が苦痛の声を洩らし斃れ伏した。 「これは妻子とややの仇。何故、我が家族を死に追いやり申した」 「そちの一家は代々に渡って藩に巣喰った隠れ忍びと知ったればじゃ」 忠義が切り裂くような声で弁明した。 「なんの詮議もせずに、罪人扱いとは理不尽にござる」 「馬鹿者、藩に巣喰った公儀の狗め」 忠義が騎乗のまま叫んだ。 「愚かなり今の言葉、笑止。道楽もほどほどに成され」 血濡れた弦次郎が狼のように眼を光らせ忠義につめよった。 「余に手向かうか、弦次郎」 「先刻、申し上げた。拙者は家臣に在らず、一家のあだ討ちに推参せし者」 「・・・斬れ」 忠義の顔色が変わった。彼は恐怖にかられ馬首を返そうとしたが、逃さずと 村正が白い光芒を放ち、馬の片脚を薙ぎ払った。 馬が悲鳴をあげ横倒しに倒れ、忠義が地面に叩きつけられた。 弦次郎は掛け合いをしつつ、身体の疲れを取り戻している。 どっと稲葉十右衛門が騎馬のままに、忠義と弦次郎の間に割り込み、 大刀を振り下ろした。弦次郎も負けずと受け鋼の音が響いた。 士道惨なり(1)へ
士道惨なり(最終回) Dec 28, 2010 コメント(7)
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士道惨なり(23) Dec 24, 2010 コメント(5)
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