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Apr 26, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬無情剣

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      「騒乱江戸湊(10)

「十右衛門、さね師の絡みを見たおかげじゃな、ついでに若い妓を抱いて

きたか」   「源次郎、茶化すな」

 痛いところを突かれ、十右衛門が憮然とした表情を浮かべた。

「じゃが由蔵の背後には、正体不明の武士が居ることが分かったな」

「幸いにも月のうち、五日ほど顔をだすそうじゃ」

 十右衛門が熱燗を美味そうに咽喉に流し込んだ。

「十右衛門、その男が風評の闇公方かの?」

「それは分からぬ、もっと探らねばな」

「十右衛門、お主だけが若い妓と心地よい思いをするの」

 源次郎が揶揄うようにニヤリと童顔をほころばした。

「探索じゃ、お蔭で物入りじゃ」

「怒るな。その代金も賭場で稼いできた、山分けといたそう」

 源次郎が懐から財布を取り出し、金子を卓上に並べた。

「拙者の銭が二分と三朱じゃ、あとは由蔵から貰った三両と賭場で稼いだ

金子じゃ」  源次郎がそれを二分した。

「一人、三両と二分じゃ。水茶屋の分は楽しんだことだし、拙者か貰う」

 十右衛門が苦い笑いを頬に刻んだ。こうもあけすけに言われると何も文句

が言えない。彼は黙然と卓上の金子を財布にしまった。

 源次郎はその様子を横目にし、蕎麦を啜り顔をあげた。

「明朝、お頭に報告に行く、賭場の負金とお主の水茶屋の代金を請求する」

「お主は賭場で大儲けをしたのじゃろうが」

 十右衛門が呆れ顔で源次郎を問い詰めた。

「こういう役得もないと銭が儲からぬ、お頭には賭場で負けたと報告する。

あとで半金はお主に渡す」

 源次郎がおでんの厚揚げを美味そうに口にして笑い声をあげた。

      「三章」

 二人は連れ立ってお頭の屋敷へと向かった。火盗改方には番屋がない。

 組頭の屋敷が番屋となっていたが、格式が高く二人は敬遠し河野邸を訪れた

のだ。昨日の雪が嘘のように晴れ渡り、千代田城の甍が真っ白く輝いている。

 この当時の江戸っ子は江戸城を千代田のお城と呼んでいたのだ。

「首尾はどうであった?」

 お頭の河野権一郎が鋭い眼差しでさっそく訊ねた。

 十右衛門が水茶屋の様子を報告し、ついで源次郎が賭場の件を語った。

「うむ、すでに往事に復したと申すか?」  

「御意に」  源次郎が肯きさらに言葉を継いだ。

「さらに大がかりに復興いたし、客筋も大店の主人が大半にございます」

 十右衛門が水茶屋で見た宗匠頭巾の武士と、一行の顛末を報告した。

「その武士と由蔵が繋がっていると申すか?」

「はい、ですが取り逃がし正体は不明のままにございます」

「黒幕とおぼしき武士は大川を利し屋形船で去ったと申したの」

「左様にございます」

「天保の改革も無にきし、水野忠邦さまも臍(ほぞ)を噛んでおられよう」

「御意に」  古賀源次郎が応じた。

 与力の河野権一郎が腕組みをして思案している。

「お頭、拙者は賭場探索で一両ほど自分の金子を立て替えております。また

勝沼は水茶屋の費えとし、じまいで費用を立て替えております。なにとぞ清算を

お願い致します」  源次郎が平然と費用の清算を口にした。

「お主等に頼んでは金がかかるの」  河野権一郎が渋い顔をした。


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Last updated  Apr 26, 2011 12:37:44 PM
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