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Dec 3, 2011
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カテゴリ:伊庭求馬活殺剣
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     「影の刺客」(77)

「矢張り貴方さまか、白河藩江戸家老の遠藤又左衛門殿」

 求馬が驚きもせず、感情を殺した声をかけ、猪の吉が眼を剥いた。

 白河藩の藩主は、老中首座の松平定信である。

「貴殿とはこうした因縁で結ばれておったようですな」

 遠藤又左衛門が素早く紋服を脱ぎ捨てた。下には白練りの衣装を

着込み十文字に襷がかけられていた。

「遠藤殿、事は破れ申した。この場で切腹を成され」

 求馬の言葉に遠藤又左衛門が破顔で応じ、

「剣士とし、尋常な勝負をいたさん」

 乾いた声と同時に素早く抜刀し、正眼の構えとなった。

「どうあっても勝負を挑まれるか」

「左様」

 受けてたつ求馬が、ゆっくりと愛刀の村正を抜き放ち、左下段の

構えをとった。凍った鬼子母神の闇で壮絶な闘いが始まったのだ。

「逆飛燕流の秘剣の冴えを存分に拝見いたす」

 声が途絶えるや、遠藤又左衛門が眼にもとまらぬ拝み打ちを仕掛けた。

それは軽妙極まる剣さばきであった。

 求馬はそのの剣を下段の位置から跳ねあげ、踏み込みざまに左首筋を

狙い、凄まじい一颯をみまった。

 遠藤又左衛門は予期した如く、素早く後方に身を退かせ求馬の攻撃を

避けた。それは稀有の剣士のみが成しうることであった。

 二人の大刀が月明かりに照らされ、白々と凄味のある刃紋を見せている。

 その対決を手に汗を浮かべ猪の吉が見つめている。

 四半刻ほど二人は微動もせずに対峙している。生死をわかつ狭間での

必死の攻防であった。

 風が銀杏並木を揺るがせた。

 猛烈な剣気を漲らせた遠藤又左衛門が、じりっと前進をはじめた。

 命を捨て去った遠藤又左衛門である、求馬はそれを悟っている。

来るなと思った瞬間、遠藤又左衛門は生死の境に足を踏み込んできた。

 攻勢を懸けたのは遠藤又左衛門である、彼は村正を上から抑え込み、

垂直に求馬の躰を両断すべく猛烈な勢いで大刀を振りおろした。

 それを感知した求馬は痩身を捻って躱した。

 一方の遠藤又左衛門は素早く大刀を引き、左脇備えの構えに変化させた。

それは求馬の反撃を阻止する、剣士としての本能の成せる技であった。

 だが生を捨てた遠藤又左衛門は、無謀ともとれる態勢で大刀を水平に

奔らせた。

 求馬が咆哮をあげ左下段から村正が跳ねあがり、宙で大刀を弾き弧を描い

て遠藤又左衛門の左肩を薙ぎ斬った。

 一瞬遅れで遠藤又左衛門の大刀が求馬に襲いかかったが、求馬は躰を

密着させ攻撃を防いでいた。

「お見事っ」

 肩口から鮮血を滴らせた遠藤又左衛門が、腰砕けとなり地面に座り込んだ。

 求馬がその様子を見つめ、村正の血糊を拭って鞘に納めた。

 遠藤又左衛門が肩で大きく息をしている。

「ご貴殿ともあろうお方が、何故に愚かな所業を成された」

「これは殿もご存じないことにござる。拙者は一橋治済が憎かった。

己の欲望を遂げんと上様をけしかけ、更に大奥までも味方とし、殿を

失脚させようと謀る治済がの」

 遠藤又左衛門が咳きこみ、唇から血が滴った。

「伊庭殿、上様は今年にはご成人あそばされる。その機会を狙って治済は殿

を首座の座より罷免し、将軍補佐役までも解任する積りにござる」

「・・・」

 求馬が夜空を仰いだ、煌々と半月が輝いている。

「治済は西の丸に入り大御所となる腹にござったが、殿が反対なされた。

奴等にとり殿は目の上の瘤にござる。それを知った拙者は無断で白川衆を

江戸に呼び寄せ、治済の暗殺を企て申した」

「皮肉な事ですな、定信さまに命じられたそれがしと嘉納主水殿が貴殿の

企てを阻止いたすとは」

「なぜ、拙者に眼をつけられた?」

 遠藤又左衛門の顔が苦痛に歪んでいる。

「非情に徹する、それが貴殿は出来なかった。古寺に放火を命じながらも、

江戸の町の類焼を避けられた」

 求馬が言葉を止め遠藤又左衛門を見つめた、迫り来る死の淵で彼は求馬を

仰ぎ見ている。

「更に世間の眼を攪乱するために、二度にわたり白河衆にお屋敷を襲わせま

したが、奴等は屋敷内に踏み込む様子をみせなかった。そこからそれがしは

貴殿を疑いの眼で見るようになりました。何故、首座殿に報告なされなんだ」

「拙者にも幕閣に知人は居ります。もはや上様のお心は定まっておられた、

それを殿に告げるは酷と言うもの」

 求馬は言葉を失った、忠節に命を懸けた男子の訴えである。これほどの

忠臣は居ない、だが無辜の他人を犠牲としたことが許せなかった。

「拙者はここで命を絶ちます。だが、このままでは死にきれませぬ。治済の

暴走を許せば、徳川宗家と御三家、御三卿は治済の血筋に支配されます」


 既に死期が迫っている。この人の遣ったことは許せない、併し己を殺し

政事の非をならす行為は認めねばなるまい。そうした思いが求馬の脳裡を

よぎっていった。

「遠藤殿、万一、治済さまが大御所を名乗り西の丸に入るような事態と

なれば、それがしが治済さまのお命を頂戴いたす。それをお約束いたす。

更にこの事件の背景は、それがしの胸に秘めておきましょう。安堵なされ、

定信さまにも嘉納主水殿にも内密にいたす」

「かたじけない」

 蒼白な遠藤又左衛門の頬に笑みが刻まれた。

「殿を頼みます。・・・最後に願いがござる」

「・・・」

「拙者の懐に五十両ござる、これを藤屋の船頭の家族に渡して下され」

「畏まった」

「これで安堵して地獄に逝けます。お帰り下され」

「さらばにござる」

「かたじけない」

 遠藤又左衛門のかすれ声を背にし、求馬は踵を廻し参道に向かった。

「むっ-」

 気力を絞った声が聞こえた。遠藤又左衛門が命を閉じた瞬間と感じたが、

振り向くこともなく鬼子母神の堂塔の脇をすり抜けた。

 鎌月が黒雲に覆われ、銀杏並木を突風が吹き抜けていった。

                       (完)


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Last updated  Dec 3, 2011 02:55:30 PM
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