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カテゴリ:恋歌1
ああ、大和にしあらましかば
今神無月、 うは葉散り透く神無備(かみなび)の森の小路を、 あかつき露に髪ぬれて、往きこそかよへ、 斑鳩(いかるが)へ。平群(へぐり)のおほ野高草の 黄金の海とゆらゆる日、 塵居の窓のうは白み日ざしの淡(あは)に、 いにし代の珍(うづ)の御経(みきょう)の黄金文字、 百済(くだら)緒琴に、斎ひ瓮(いほひべ)に、 彩画(だみえ)の壁に見ぞ恍(ほ)くる柱がくれのたたずまひ、 常花(とこばな)かざす芸の宮、斎殿(いみどの)深に、 焚きくゆる香ぞ、さながらの八塩折(やしおおり) 美酒(うまき)の甕(みか)のまよはしに、 さこそは酔はめ。 [ああ大和にしあらましかば]より。 ああ、大和では今10月--- 木の葉が散りだした神々の山の森の小径を、 朝露に髪を濡らしながら、歩いて斑鳩へ行こう。 平群の野原のすすきは黄金色の海となり、 その上には太陽がゆらゆらと揺れているだろう。 窓越しに差し込む薄い日射しの下で、 古代の珍しい経典の黄金文字、 百済伝来の琴、斎檀の酒器、そして壁面の仏画、 柱越しで、それらのたたずまいに見とれたいものだ。 飾り花の絶えない学問所や斎殿の奥深くでは、 焚き込められた薫香が、 まるで瓶から流れ出る芳醇な美酒の香りのようだ。 さあ、その香りに酔おうではないか。 三好達治「詩を読む人のために」(岩波文庫) 予定では明日、大和へ旅立つはずだった。 結局諸事情でつぶれたけれど、薄田泣菫のこの詩のように、 森の小径をたどって斑鳩へ行きたかった。 季節は霜月に替わったけど、情景は同じだったろう・・・ いつの日にか、旅してみたい いにしえの大和へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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