カテゴリ:民話とあやかしの世界
缶を気にしながら、サダは砂たちが焦って飛び出すのを待っていたけど、 相変らずサダには砂の所在は判らず、見当違いの方向を警戒していた。 サダの待ち伏せ作戦に引っかかって、アホの松っちゃんが早まって動いてみつかった。 砂から缶は近いけど、飛び降りてダッシュするにはサダが近過ぎた。 今は冷静に機会を窺うしかないし、もし蹴ることに失敗したら、 頼みの綱は、回廊の床下に隠れている俊足の美沙だった。 みつかったアホ三人が、砂のことを「帰ったんちゃうか?」とか、 「ビビってるんちゃうか?」とかいいだすからムカついた。 辺りは、さっきより随分暗くなってきていたから、 美沙が蚊に食われてないかと、ちょっと気になりもした。 美沙の方に目を向けたとき、美沙の後ろに誰かが見えた。 白い半袖のシャツを着た同年代の男の子だったけど、この辺で見ない子だった。 床下の奥から出てきたので、気味悪く感じた。 男の子は、美沙の背中の直ぐ後ろにしゃがんで美沙の両肩に手を置いた。 見ない子だけど、美沙は驚きもしないし、きっと友だちなんだとその時は思って、 砂は、鬼のサダの動きに集中した。 サダが少し缶から離れ、砂が隠れた樹と反対の方へ動いた。 今だと思って、樹から飛び降り猛ダッシュしたけど、バランスを崩して転んだ。 サダは余裕で缶に戻り、ニヤニヤしながら缶を踏んで砂の名を呼んだ。 マコと、ロクベーと松っちゃんの、シラ~っとした視線が痛かった。 あとは、美沙が蹴ってくれることに期待するしかないけど、 まだ動きはなく、境内は一段と暗くなってきていた。 「どないしよ?」と、鬼のサダがいった。 「うん... 美沙呼んでやめて帰ろかぁ?」とマコが勝手なことをいい出した。 そのとき、タタタっと足音がして缶が勢いよく跳ねて藪まで吹っ飛んだ。 だけど... 缶を蹴ったのは美沙じゃなかったんだ。 足音は、缶が飛んだ方向へ駆け去って、そのままガサガサと藪を踏み分ける音がした。 その場にいたサダも、砂も、マコも、ロクベーも凍りついた。 サダは、真っ黒な影だったといい、ロクベーは物音だけだったといい、 マコは唖然として突っ立ったまま泣きそうな顔をしていた。 突然のことだったし、何事が起きたのか理解できていなかったけど、 あれが美沙ではないことだけは、誰もがよく判っていた。 だから、砂は白い半袖の男の子だったとは口に出せなかった... 「美沙は? 探さないと!」 みんなを連れて回廊の床下の方へ急いだ。 砂とサダが、回廊の床下に潜って美沙を引き出した。 眠ってるのか... 動かないし、返事もしないから怖かった。 逃げ出したいほど、ほんとは怖かった。 「蚊に血吸われすぎて死ぬんちゃうん?」と松っちゃんが心配そうにいうので、 砂は「蚊で死ぬかい!アホ!」と返した。 とにかく、ぐったりした美沙を交代でおんぶして家まで連れ帰った。 つづく... お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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