カテゴリ:砂的古典文学のススメ
映画やドラマに脚色があるように、曽根崎心中も脚色され、
幾つものバージョンが書き下ろされている。 江戸時代、京都で出版された「心中大鑑」という読物では、 遊郭天満屋の遊女お初は京都生まれで、曙(あけぼの)とされ、 指名率No.1の超売れっ子遊女だったとされる。 こうなると、もはや悲劇の遊女でもなんでもない。 もし事実だとしても、物語としては興ざめだ。 それに比べると、近松門左衛門の曽根崎心中は、さすがというしかない。 二人が心中したとき、事実では徳兵衛が25才、お初は21才だったそうだが、 近松の曽根崎心中に登場するお初の年齢はと十九となっている。 これはどういうことだろう... 厄年の最初が男25才、女19才なので、より悲劇性を醸し出すのだ。 それに、近松は遊郭でのお初の人気振りを、ややぼかして表現している。 こういうところに、近松の作家としての粋とセンスを感じる。 さて、悲恋 曽根崎心中のクイズの答えにもなるところだが、 気になるのは、二人の馴れ初めだ。 砂浮琴が脚色した、悲恋 曽根崎心中では、観音参りの帰りに立ち寄った、 生玉神社の"茶屋"が二人の出逢いの場となり、物語が展開する。 これは、馴れ初めをより衝撃的にするための演出だ。 実際はどうかというと、二人は遥か前に遊郭で出逢っているのだ。 浄瑠璃では、茶屋は久し振りの再会の場で、お初が事情を知るシーンとなる。 今風にいうと、大坂内本町の平野屋は、江戸にも拠点を持つ一流企業で、 徳兵衛は、そこのCEOと縁続きの中堅エリート社員だった。 たまに、遊郭へ通うぐらいのことは十分出来る身分だ。 徳兵衛は、遊郭の張り見世(顔見世)で惹かれ、お初を指名し、 お初は、座敷で徳兵衛の優しい人柄と誠実さに、"一目惚れ"してしまう。 本当の二人の姿は、人気No.1のアイドル遊女のお初と、一流商社マン徳兵衛。 そんな二人の悲恋という、何だかバブル期のトレンディドラマの香りがする。 江戸時代、俗に世話物と呼ばれた、スキャンダル物は多々あったが、 登場人物は、悪女やイケメンのだけで中身のないダメ男が多い。 曽根崎心中が、名作として色褪せないのは、二人のキャラだと思う。 本当なら、誰より幸せになれた筈の二人... しかし、タイミングと邪な知人の裏切りで歯車が狂い、二人は悲劇的な結末を迎える。 史実の曽根崎心中は、だからこそ哀しく、近松の名作として普及した。 ということで、クイズの答えだが、徳兵衛とお初の出逢いのシーンが私の脚色だ。 古典文学を味わってもらうため、またこういう機会を設けたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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