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カテゴリ:雑感日記
晩ご飯も食べ終え、子供のお風呂も入れ、皆が寝静まった深夜、私は眠れずにいた。 実家は田舎なのでとても静かだが、時折風が生い茂る葉を揺らしざわめかせた。 私は二階へ続く階段をゆっくりと登った。階段が軋む音と胸の軋む音が重なっているように思えた。 ――今更…でも ドアを開けると、まだ片付け切れていない散らかった部屋が目に飛び込んでくる。ベッドの下に置いた箱を引きずって蓋を開けた。 3冊の中で一番古い日記を手に取った。表紙を開く手が何故か小刻みに震えている。 過去の自分の本音を見るのが何だか怖かった。 7年前、私はまだ20代で初恋が終焉を迎えかなり落ち込んでいた。 そんな時に出会ったのが彼だった。 あの人は初恋の相手とは全く違うタイプで男らしかった。だから惹かれたのかもしれない。常にリードしてくれたし、細やかな気遣いも忘れていなかった。情熱だけがぶつかり合った初恋とは全く違っていた。 けれど、そんな恋も終わりを告げた。 深い溜め息をついて、まだ埃っぽい部屋の窓を開けた。空を見上げれば満月がやさしい光で全身を包んだ。あの人に最後に逢ったあの日も満月だった。 あんなに躊躇っていた日記を静かに読み始めた。 出会い、楽しかった日々、あの人がついた嘘、改めて告げられたあの人の病気の事、2人でもがいた日々の事…。 読んでいくうちに、だんだん胸が苦しくなり吐気をもよおした。喉の奥が酸味と苦味を感じいてもたってもいられなくなってしまう。洗面所で胃液を少し吐いて口を濯いだ。酷い顔をしているのだろう、と思い鏡は見ずに撫でる様に顔に水をかけると部屋に戻った。 あの人と最後に逢った日のことを今までに何度も夢に見ては魘されていた。 私はあの人を独り置いてきぼりにし、目の前から去った。あの人は独り、私の背中をいつまでも見送っている。でも、私は絶対に振り返らずに真っすぐ歩いていく――そこでいつも目が覚めた。 あの日、私から別れを告げた時から家族には知られずに一人、真夜中に汗をびっしょりかいては目を覚ましていた。 逢うのをもうやめようと決めたあの日の事は何故かよく覚えていた。病気の事を告げられた時、精神的に少しおかしくなってしまっていた。淡々と今の病状や、今後どうなっていくのかを電話越しに聞いた日の事もよく覚えている。もっと楽しい出来事もあったはずなのに、辛い日々の事しか思い出せなくなっていた。それは、私からあの人の元を去った事が「彼を裏切った」と思っていたからなのかもしれない。 日記を読んでいくと、出会った頃の活き活きとした感情が蘇ってきた。そして、病気の告白を受けてから日記は1週間ほど書かれていなかった。その空白が悩んでいた気持ちを現しているように思えた。そして最後の日の事が書かれているページになった。 つづく あれ、長くなっちゃった(汗) さらっと短くするつもりだったのになぁ~。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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