ジョルジュ・シフラの晩年の録音
ジョルジュ・シフラの全盛期の録音が話題になっている。それも、リストよりもむしろショパンの練習曲集の録音で… さて、ここで、皆様にご紹介したいのは、彼の最晩年(1980年~1986年)の録音が、4枚のCDセットに収められていることである。Les Rendez-vous de Senlis このようなタイトルで、フランスEMIから、2003年に出されたセットである(7243 5 85340 2 3 EMI Music France 2003)。曲目一覧も解説書もフランス語のみでしか書かれていない、フランス国内盤であるが、もしも入手できるならばぜひ聴いてみて欲しいと思う。1枚目は古楽で、クープランやラモーなどの小品が並んでいる。最後はバッハ=ブゾーニのプレリュードとフーガBWV532である。2枚目はショパン&リストで、ショパンの夜想曲作品9-1、2、スケルツォ2番、練習曲作品10-3,4,5,10,12、華麗な変奏曲、次にリストのポロネーズ2番、超絶技巧練習曲10番、加えてサン=サーンスのワルツ形式の練習曲。3枚目はオール・リストで、メフィストワルツ1番、エステ荘の噴水、即興的ワルツ、ヴァルス・カプリス6番、伝説曲2番、超絶技巧練習曲12番、9番、それにユモレスク。4枚目はシューベルトの即興曲から2曲に、ブラームスのハンガリー舞曲(シフラによるソロ編曲)以上である。ここで、最近話題のショパンの練習曲のタイミングを記しておきたい。作品10-3…4分12秒作品10-4…2分11秒作品10-5…1分49秒作品10-10…2分35秒作品10-12…2分48秒ごらんのように、普通の演奏時間である。 ある評論家が、シフラの無惨な晩年を曝け出した、聴くに耐えない録音…このように評した。ある観点から見つめるとそうかもしれない。 しかし、たけみはこの最晩年のCD集を高く評価している。なぜならば、昔超絶技巧を売り物にし、一世を風靡したピアニストは、テクニックの衰えとともに、芸風を進化させない限り、消えてしまう運命にあった。そして、その最も典型例だと揶揄された、シフラもサーカスに比するしかないような超絶技巧を失った瞬間、ピアニストとしての魅力も失ってしまった。 みんながそのように思ったし、70年ころには事実、シフラは世界の一線からは退いていた。だけど、この演奏をシフラとは思わずに、既成観念を抜きに聴いて欲しい。そこからは、苦労人であったシフラの、深い年輪が刻まれた、深い音楽が鳴り響いているのだ。 レコード会社からも世界中のファンからも忘れ去られようとしていた最晩年に、こんな精神的に深い、シフラの人生を総決算するような音源が、合計で252分も残されていたことを知ったとき、たけみはシフラの墓前に首を垂れる者である。なんとすばらしい、老境のシフラの演奏であろうか… このCD集を入手することは現在でも可能なのであろうか? もしも可能であるなら…このように願って止まない。