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テーマ:旅のあれこれ(10252)
カテゴリ:移住模索期
まずこの国、オーストラリアをみてやろうと思った。バスの一カ月乗り放題パスを購入、メルボルン、アデレード、エアーズロック、ダーウィン、ケアンズ、ゴールドコースト、ブリスベンそしてシドニーと回った。ちょうど、地図でいうとオーストラリアの右半分だった。都合、バス中5泊となり、最後には揺れてないと眠れぬほどになっていた。まず、デカイ国だと体全体で感じることができた。1985年の7月のことだった。
「私も、こんなサングラスが欲しいわ。」 豊満な体に黒い小さなビキニで泳いでいた白人金髪女性とこうして会話が始まった。ダーウィンで投宿していたユースには、小さいけどきれいなひょうたん型のプールがあった。7月のダーウィンは、どこにも遠慮せずに最高の気候だといえる。オーストラリアは真冬だが、北のダーウィンではカラッとした夏の天気で十分泳げる。 私は昔から顔が広いというよりデカイと言われて育った。来る前に赤坂で買った度でかいサングラスが役に立った。 「日本から来て、今、旅をしているんです。」 私は、ややぎこちなく言った。 「私、ジェニーっていうの、ゴールドコーストから出稼ぎに来てるのよ。」 会話はジェニーの屈託ない性格に助けられるように進んでいった。幸い、プールには他に人がいなく、余計なことに気を回さなくていい環境があった。彼女の声はやや太く低くプールの中に響いた。 「どう、今夜カジノに行かない?」 そうか、ダーウィンにはカジノがあるんだ。ちょっとした会話の後彼女が言い出した。当時は、メルボルンにはカジノがなく、行くとしたら初めての経験になる。賭け事はというと、日本でのパチンコ以来という地味な人生を歩んできていたから、カジノ行きには興味がそそられた。旅行中にちょっと気取った所に行かないとも限らないということで、バックパックに紺のジャケット を綺麗にたたんで入れていた。いよいよその出番だ。綺麗にたたんでいても、やはりバックパック、皺伸ばしに十分苦労した。 カジノには歩いて出かけた。ジェニーは黒く体にフィットした水泳選手のような一体式のワンピース姿で身を包んで、ピンク色の薄手のカーディガンを羽織っていた。どっから見てもものすごく目立つ!そして隣にはジャケット姿のでかい元相撲取りのような東洋人。見るなといっても無理にでも見てしまいたくなるカップルだ。歩いていて視線が気になる。 カジノの中に入ってみて驚いた。ジャケットなんか着けている人は1人もいなかった。みんな、半ズボンにスニーカーみたいな人ばかりで、まるで成金のアジア人のようで、私はすぐにジャケットを脱いで肩にかけて中を歩いた。まったく何から何までカジュアルなダーウィンだった。というより、オーストラリアが基本的にカジュアルな国なのだ。金もないので賭けごとはせずにバーで飲み始めた。 「昔、私はストリッパーだったの。」 もったいなくて、聞き直したりしない。しっかり聞こえた。酔いが一気に回りそうな目まいを感じた。こういう時は、絶対に顔以外を見たりしてはいけない。そういう機転だけは昔からよくきく。 ジェニーはハイボールのグラスを回しながら話を続けた。 「でも、今はこう見えても、いっぱしの写真家なのよ。結構厳しい競争社会だし、出遅れているので大変だけど頑張ってるわ。」 ジェニーは、写真で生計を立てていて、その仕事でダーウィンに出稼ぎに来ていたのだ。若作りだけど、おそらく40歳に手が届きそうな年なのだろう。きっとストリッパーでは食べていけなくなったのだろう、などと余計なことまで推し量ろうとした。それにしても、いつまで見ていても見飽きない人だ。美人は3日で飽きるという言葉を返上したくなる。 私は、オーストラリア入りしてから、毎日家計簿を付けて節約していた。カジノにいても人が賭けているのを見ているだけだった。ジェニーも、お金はなさそうだった。しばらくブラブラして、真っ暗な道を歩いて帰ることにした。彼女は、途中から黒いサンダルを脱いで裸足になってその両方のサンダルを肩からかけるようにして気だるく歩いていた。昔、こういうシーンを映画で見たような気がした。仕草が絵になる人だ。 ジェニーと私は、あまり会話はないが、生温かい夜の空気に吹かれながら私の気持ちは浮きっぱなしだった。やっとユースに戻った。午後泳いだプールが、誘うように月の明かりを受けながらも黒く小刻みに揺れていた。 「良かったら部屋でいっぱい飲む?ビールくらいしかないけど。」 「OK」 平静を装った。酔ってない筈なのに、のぼせて胸がドキドキする。二階の奥の彼女の部屋までの距離がやけに長く感じた。 部屋に明かりが付いている。ドアを開けるとTVの音がした。中に入った。 「これスティーブ。」 はち切れるような白いショートパンツ姿で上半身裸の50絡みの男が、ラッパ飲みしていたビールを置いて席も立たずに真顔で私に握手の手を伸ばして、手がひん曲がるほどの力を込めて私に握手した、、、、 毎回、果敢にこの緑の箱をクリックよろしくお願いいたします。 タコ社長の本業・オーストラリア留学 タコのツイッター Twitterブログパーツ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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