最初はチラシに魅かれた。
この色調とレイアウト。いい感じでしょう。
主役のシャシを演じるシュリーデーヴィーが夢見る少女のような愛らしさ。
幼い息子と二人、マイケルの真似をしてフーッと手を挙げる無邪気な様子が可愛い。
これで母親役?!と驚くが、実は40代後半らしい。
さすが美人の宝庫インド。恐るべし。
仕事をエネルギッシュにこなすビジネスマンの夫と、思春期の娘に
英語ができないことでからかわれる日々。
得意の料理の腕をふるい、家族を愛してもいるが、敬意を払われない事に絶望していくシャシ。
そんな彼女がニューヨークに向かい、姪の結婚式で行ったスピーチは英語で…。
原題は『English Vinglish』…これを日本語のタイトルにするのは大変そう。
『マダム・イン・ニューヨーク』も内容に添ったわかりやすい意訳。
だけど、原題とそのチラシには敵わない気がする。
ほら。「マダム」を前面に出した、女性の目を引く1枚目と、
ガッツポーズで満面の笑みを浮かべる2枚目は、ずいぶん印象が違う。
ずいぶん前になるけれど、アメリカの友人を訪ねて行った時のこと。
搭乗手続きのため順番を守って並んでいたのに、やっと自分の番、と
緊張しながら前に進んだら「列に並んで!」と繰り返され…。
最初は途方に暮れたが、列に並んでいた、と何度言っても、
目も見ず犬でも追う手振りで対応され、とまどいはやがて憤りに。
幸い、同情してくれたのであろう隣の白人女性(ヨーロッパから家族旅行中のよう)が
助け舟を出してくれて、その場はなんとかなったのだが。
「彼女はちゃんと並んでいました」と言ってくれてるのに、「ホント?」と
肩をあげるだけで謝罪の言葉もない。客に対してなんたる態度!
「日本にはお客様は神様だ!って諺(?)がある!」と言える語力があったなら。
だから、シャシが着いたばかりのニューヨークのコーヒーショップで
英語でうまく注文できず、
やや太めの黒人系女性(奇しくも私に対応した女性と外見も態度も似ている)の
見下げた攻撃にさらされてパニックに陥った時、過去の自分が重なって
他人事とは思えなかった。
これまた趣向の違う3枚目をご覧いただきたい。
舞台がニューヨークだから、というわけではないけれど、
自由の女神新バージョンを感じさせるではありませんか。
サリーの上にコートを颯爽とはおり、手に持つのはたいまつの代わりにコーヒー。
コーヒーを注文できずパニックを起こした彼女の、いまや輝かしい戦利品。
いくつかの試練を乗り越えて迎えた姪の結婚式。
英語でスピーチする彼女の誇らしげな表情と、
「家族を持ちなさい。家族だけはあなたを尊重し敬意を払って自信を与えてくれる」
の言葉を耳にして、うつむく夫や娘の表情が対照的。
彼女に自信を与えてくれたのは「愛され」「必要とされる」満足感。
ここには書ききれない、あんなこんながあるのだが…それは作品を観ていただきたい。
最後に1つ。英語で意思疎通を叶える努力をする一方で、
本当に大事なことは、お互いに自国の言葉で(つまり相手に理解できない言葉で)伝え合い、
それがなんとなく的確に伝わる妙も描いているのは偶然ではないはず。
自尊心を支えるものは、なんだろう。