テーマ:海外生活(7774)
カテゴリ:移住民子供体験談
いきなりの深雪に負けて北米で最も気候穏やかな都市の郊外に引っ越したアタクシ達家族。
おんぼろ一軒家を購入するまで数ヵ月間、今度は三階立てのアパートの一階に住み込んだ。新しい学校まで徒歩十分ほど。アタクシは七才になりたてだった。 最初の二日は母が一緒に送り向かえしてくれたが、三日目からアタクシ自立。この生垣で右、この交差点で左... と慎重に登下校した。すぐ同じアパートに住む友達もできて、いつもお互いの言葉が判らなくても一緒に仲良く通っていた。 数週間したある日、「??」だらけの英語の単語のことなどをボーッと思案しながらたまたま一人の帰宅路、ふと気がつくとまったく見覚えのない所を歩いていた。 心臓がドクンッとばかりおヘソの辺りまで落ちた。手足からサーーッと血が引く。 慌てて、来た道を引き戻したが行けども行けども未知の町並みで冷や汗がふきだした。 どうしよう。 アタクシは青い眼の人形の様に、言葉が通じない。 もう、歩いている場合ではない。走りだした。走りながら、「神様、どうか無事アパートへ帰らせて下さい、帰れたらもうこれから妹をいじめません、ぜったいに」などと下らない祈りさえ心の中で唱えていた。神様って信じるのかどうかも判らないというのに、厚かましく。 息が切れるまで走っても見覚えのあるものはまったくない。脚がガクガク震えてきて、ちょっと涙も浮かんでしまった。 「泣いてる場合じゃないっ!」と焦れば焦るほどどこをどう走ったのか判らなくなってしまい、さらに必死になった。 それにしてもだれもいない。 だが、道を聞こうったって、アタクシはそれだけの語学力がない。なにせコチラへ越してきてまだ数週間しかたっていないのだ。 自分の住所さえ、記憶から吹っ飛んでいる。 電話番号。 電話番号も頭マッシロでどうしても思い出せない。 どうしよう。 そんな風にぜーぜー走っていると、今にも車に乗り込みそうなおじさんがいた。茶色いズボンにチリチリのもみあげで背の高い白人のおじさん。 「知らない人と話しをしてはいけません。」 「知らないおじさんの車に乗ったら誘拐されて殺されちゃうからぜったいいけません。」 でも... このままじゃ死んじゃう。迷子のままのたれ死に。死体もあがらずに母は心配するだろう。 と思い詰めていたので、おじさんにすがってみることを決心した。だが、泣きじゃくりながら戸惑うアタクシを前にして、おじさんは困るばかり。言葉が、通じないのだ。 「Lost... yellow... apartment...」 これだけ、やっと言えたのを覚えている。迷子、黄色、アパート。アパートが黄色かったのだ。 おじさんは優しく色々問いかけてくれるのだが、アタクシはまったく判らない。まるで「迷子の迷子の子猫ちゃん」。困り果てたおじさんはとうとう、とほうにくれて、車に乗るようにとしぐさで示した。 「知らないおじさんの車に乗ったら誘拐されて殺されちゃうからぜったいいけません。」 おじさんはどうするつもりなんだろう。もう、死ぬ覚悟で乗りこんだ。子供がいる方が聞いたら卒倒されることだろう。 なんとそのおじさんはそれから近所をゆっくりグルグルと車で回ってくれたのだ。ここかい?ここ?このアパートは黄色じゃなくてクリームか。じゃあ次は... そして、あった!アタクシの住むアパート! ああぁぁぁ、安心感でまたワンワン泣きだしてしまい、車から飛び出してアパートまで全速力で駆けた。 よかったよかった。 今も後悔するのは、その親切な救命主のおじさんにきちんとお礼を言ったかどうか、覚えていない事。ああ、見知らぬおじさん、ありがとう。本当に、本当に、ありがとうございました。 そしてそれからは誓いを守り、妹をいじめなくなったかというと... やはりしっかりいじめていた。ごめんなさい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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