カテゴリ:移住民子供体験談
まだ日本に住んでいた頃、初めて意図的にウソをついた。鮮明に覚えている。
「アタクシは今、ウソをついている」と思いながら、ウソをついたのである。 五歳だったろうか。「おでかけ用」の黒い靴が小さくなってしまったので、大きなデパートの子供靴売り場へ連れて行かれた時だ。確か真冬の、年末で賑わう街だった。 来年北米に持って行く靴だから、いいお靴を買いましょうね、と母に言われ、色々試履させられたのを覚えている。 靴売り場のお兄さんが次から次へと持ってくる靴の中に、一目でワクワクした一足があった。パテントのピカピカの靴。 それからは何足試履させられても、そのピカピカの一足しか目になかった。 どれがいい? と聞かれて「これ!」と即答。 でも、母がいい顔をしなかった。でもタリアちゃん、それは一番重いお靴でしょう。いいお靴は軽い物なのよ。 確かに、そのピカピカの靴は重かった。 「でも、これがいいの!」 軽い靴がいい靴なんて初耳だ。 困ったわねぇ、じゃあ、それとこっちと手に持ってみなさい。どっちが重い? アタクシのお気に入りのピカピカ靴が倍ほど重い。でも。でも。ええい。 「こっちが重い!」と軽い方の靴を差し出してしまった。 靴売り場のお兄さんと母が顔を見合わせて苦笑したのも覚えている。 母は、黙ってその重い靴を買ってくれた。 その頃父は既に北米に渡っており、母は初めて一人で年末を迎えていた。どんなに心細かったろう。そんな時にそれまで聞き分けがよかった(←と自分で思っている)長女が些細な事で明白なウソを人前で言うなど、どんなに悲しかっただろう。 帰路、アタクシはお気に入りの新しい靴を買ってもらいずっとご機嫌だった。 だが「ウソをついてまで買ってもらった靴」の意識が頭から離れず、その重い靴を履く度、心もずっしり重くなったのも覚えている。 明くる年、北米に持って来たその靴は小さくなり、妹Jが履き、友人Mちゃんとその妹Kちゃんが履き、アタクシ達の妹Eのもとに戻ってきて、さらに三人ほどの小さな日系少女が履いたらしい。彼女達は、何も知らずに喜んで履いてくれたのだろうか。 - - - イケナイ。まるでアンデルセンの「赤い靴」である。足を靴ごと切り落としてもらわなくて、よかったよかった? 日童謡「赤い靴」もどうぞ。アタクシの思い違い、笑ってくださいませ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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