♪たなひろの医食農日記♪

　「都市を背にしろ。都会を背にして綾を見なければいけない。田舎、田舎と思って綾をみるんだよ。都会がこういうものをつくっとるといってまねしちゃいかん。」

　これは宮崎県綾町の前町長　郷田　實さんが役場職員によく言ってらっしゃった言葉だそうです。

　先週末、Ｔ先生のお誘いで、職場の仲間とＹ農園のＫさん夫妻とともに宮崎県の綾町に行ってきました。綾町は雄大な照葉樹林（照葉大吊橋）、有機農業の町、一戸一品運動のさきがけの町などとして知られ、7000人ちょっとの小さな町でありながら、年間120万人が全国から訪れる観光の町として知られています。綾町はもともと「夜逃げの町」と言われていました。その理由は山林が総面積の８０％を占め、林業で生計を営む町でしたが、戦後の急速な工業化で需要が激減し、生計が立てられない＝人が住めない町になっていたそうです。その町をよみがえらせたのが24年間町政を指揮してきた郷田實前町長です。

　郷田さんの著書「結いの心～子孫に遺す町づくりへの挑戦～」の一説に次のような言葉がありました。

『都市との比較異の発想は、自分たちの町や村にかつてはあって、今は眠っている、忘れ去られているもの思い出させてくれます。お祭りであったり、物づくりであったり、食習慣であったり、どこの土地にも由緒とか故事来歴、その地域に独特な得意技や文物、自然というものがあるはずです。～中略～町おこし、村おこしといって、ただ立派な施設や建物をつくっても、それだけでは人々の心をひきつけることは難しいのではないか。伝統に根ざさない全く新しいものを企画し、つくろうというなら、絶対に都会でやるべきです。都会には都会の生き方があり、それはそれで人をひきつけるし、住民の暮らしやすさにつながるとおもいます。まちづくりを考えるとき、近代的、都市的と思われる風物が目指されてしまう。日本のどこにでもある町になってしまう。そうではなくて、これから求められているのは、日本の景色、日本の田舎です。景色が求められるということは日本の文化が求められているということです。都市の文化は日本の文化ではない。ああいうところで暮らしている人たちが心を癒すために自然を求めてくるのです。都市を背にして綾をみるとはそういうことです。』


　著書のタイトルが「結いの心」であるように、郷田さんがもっとも大切になさったことは、自治公民館を利用して、集落のさまざまな課題について住民同士がとことん議論してもらうことを徹底して行うということだったそうです。日本の民主主義は与えられた民主主義であり、とことん議論しあって結論をだして、民主主義の理念にもとづいてみんなでその決定に従って努力するという本来の民主主義からかけ離れてしまっている。何はさておき必要なのは「議論」である。議論が町政のすべてではないが、いかに住民に「自治の心　結いの心」を取り戻してもらうかが何よりも重要なことだとおっしゃっています。
　前回ブログ「健康の底上げ」にも書きましたが、感心が高い人たちとそうでない人たちの間には深い溝が存在します。郷田さんはまちづくりにおいて、この溝を埋めることに着目されています。郷田町政に対する不満にふたをせず、批判の中から議論を生み、自らも議論の中に飛び込むという地道な努力の末、町民全体の心が結ばれて同じ方向に走ることができたのでしょう。

　綾の町では今でもそうした「一貫した空気」が流れているのを感じることができました。